はなびえのよるには (1:1)
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「はなびえのよるには」
桜の咲く季節にはとても寒い日がある。
そんな夜の、カップルではない男女の虚しい会話。
上演時間10分
リサコ:テツシと割り切った関係。
テツシ:リサコと割り切った関係。他に彼女がいる。クズ。
◆◆◆本文
リサコ:(モノローグ)春とは案外寒い日が多くて。桜が咲いてもまだ寒い。寒さに備えていない分、冬の寒さよりも、よけいに身に染みる。
それが「花冷え」
(間)
(テツシの部屋。ベットに横になって、天上を見ているリサコと、スマホを見ているテツシ)
リサコ:(ため息)ねぇ。
テツシ:ここで敵を倒して安心したところに、もっと強い敵来るんだよな……!
リサコ:ねぇ。
テツシ:あ、来た! もういいよ出てくるな!
リサコ:ねぇ。
テツシ:ん?
リサコ:明日の日曜って何してる?
テツシ:ん? ちょっとまって、今アニメ見てるから。
リサコ:それ何度も見てるじゃん。
テツシ:は? だから? 名作ってのは、何度見てもいいんだよ。むしろ、繰り返し見て初めてわかる良さもあるの。
(しばらくアニメ見て)あー、この最期の言葉がさぁ、仲間の為に犠牲になる姿勢が、何度見てもかっこよくて泣ける。戦う男の背中ってやつ? はぁ、惚れるなこれは。
リサコ:そう……
テツシ:(スマホを見ている)
リサコ:ねぇ、桜見た?
テツシ:は?
リサコ:桜。
テツシ:ああ、会社に行く途中に咲いてるから見てるよ。
リサコ:明日さ、お花見行かない?
テツシ:お花見?
リサコ:うん。桜、見たいなって。
テツシ:あー……。俺インドアだから、外行きたくない。金ないし。
リサコ:お金なんてかからないよ。近所の公園、ちょっと歩くだけでいいから。
テツシ:ふーん、まあ気が向いたら?
リサコ:行きたくないんだね?
テツシ:だって知り合いに見つかったらさ、いろいろ面倒じゃん?
リサコ:私と一緒にいるのを見られたくないってこと?
テツシ:詮索されたくないもん。別にいいじゃん、俺みたいな情緒のわかんない人間誘わなくても。1人で行けば? リサコ一人行動大丈夫な方でしょ?
リサコ:だってお花見だよ? 誰かと綺麗だねって話しながら見たいの。
テツシ:女友達と行ってくれば?
リサコ:友達は、みんな彼氏できちゃって。あんまり予定合わないし。会っても彼氏の話ばかりだから……居心地悪くて。
テツシ:それはリサコのコミュ力の問題じゃん。適当に話合わせておけばいいじゃん。みんなやってるよ?
リサコ:テツシと行きたいの。
テツシ:なんで俺? 俺が行ってもどうせ、あーめんどくさい、早く帰って押し倒したいなーとかしか考えてないって。
リサコ:いいよ……それでもいいから、一度くらい外で会ってくれない?
テツシ:んー
リサコ:お願い。私、テツシになんか頼み事したことないよね?
テツシ:じゃ、これからも、しないでもらっていい? 俺頼りにならないし。クズだし。
リサコ:どうしてもダメ?
テツシ:……まあ、今度気が向いたら?
リサコ:今度っていつ? 桜ってすぐ散るよ?
テツシ:さあ、わかんない。
リサコ:行く気ないよね?
テツシ:あのさあ、さっきから何? 俺にどうして欲しいわけ?
リサコ:何かして欲しいわけじゃないけど、一回くらい……
テツシ:俺、最初に言ったよね、付き合わないって。それでもいいってリサコが言ったよね? 束縛とかおかしくない?
リサコ:束縛? これも束縛になるの? テツシが誰と居ても、ずっと連絡くれなくても、私文句言ったことないよね?
テツシ:いや、束縛してるか決めるのリサコじゃないよね。リサコの物差しではアリでも、俺が縛られてるって思ったらそれは束縛。 違う?
リサコ:……
テツシ:ヒドイ男だよね。もっといい男探しに行きな? 頑張れリサコ! 未来は明るい!
リサコ:いつもそれ言うよね。私が出来ないこと知ってて。
テツシ:あっそ。(再びスマホを見る)なんか動画でも見よ。
(間)
リサコ:ねぇ、彼女さんとはどうなってるの?
テツシ:え? 別に普通。
リサコ:結婚しないの?
テツシ:さー、いつかはするんじゃない?
リサコ:そう。
テツシ:むこうがそろそろプレッシャーかけて来てるし。
リサコ:そうなんだ。
テツシ:結婚したら奥さんとしかできなくなるから今のうちに遊んどかないとー、って考えてる俺、最低なんだろうな。女から見たら。でもさ、男の本音なんてそんなもんだって。みんなやってるよ、言わないだけで。
てか結婚ってシステムがさ、女にばっかり有利だよね。全然平等じゃないじゃん。
せめて浮気3回までならOKとかにして欲しいわ。
リサコ:クズだね。
テツシ:だからそう言ってるじゃん。
リサコ:じゃあなんで結婚するの?
テツシ:だっていつまでも独身だと周りがうるさいじゃん。結婚してないやばい奴って思われたくないし。
リサコ:そんな理由?
テツシ:それだけってわけじゃないよ。普通に温かい家庭はいいなって思うよ。あ、そだ、娘欲しい。
リサコ:娘?
テツシ:うん、で、「お父さんと結婚する」って言われたい。
リサコ:子供好きなの?
テツシ:いや。でも自分の娘ならかわいいかなって。
リサコ:その娘さんがテツシみたいな男にひっかかったら?
テツシ:え?
リサコ:だって男ってみんなそうなんでしょ?
テツシ:あのさ、質問じゃなくて尋問になってない? 俺に正論ぶつけたら真人間になると思ってる? それとも、単に俺を傷つけて、すっきりしたいだけ?
リサコ:ごめん。
テツシ:言っとくけど、俺に彼女いるのわかってて、家にくる時点で共犯だからね? リサコだってクズじゃん。
リサコ:そうだよね……うん、そう……
テツシ:そんな顔するなって。大丈夫、大丈夫。人間だって動物なんだし、男と女なんて、そんなもんだよ。リサコだって楽しいと思うことをすればいいじゃん。
……俺も、リサコとしてる時は、リサコのことだけ考えるし、ねぇ……(リサコに抱きつく)
リサコ:やめてよ……
テツシ:なんで? なんか考えすぎて辛くなってるみたいだから、慰めてやろうとしたのに。
リサコ:だって、そういう気分じゃない。
テツシ:あっそ、じゃあいいよ。動画でも見よ。
……帰る? ここいてもやることないでしょ?
(間)
リサコ:ごめん……(テツシの背中に抱き着く)
テツシ:なに? その気になったの? やっぱしたいんじゃん。別に恥ずかしいことじゃないよ、女にだって性欲はあるんだし……。素直になれば、かわいいよ、リサコ。
(間)
リサコ:(モノローグ)テツシの唇は甘い。私の体を這う手は優しい。ひと時のぬくもりだとわかっていても、私はそれを求めてしまう。そのぬくもりに身をゆだねるほどに苦しくなることはわかっているのに。
(間)
テツシ:(ため息)お疲れ。
リサコ:うん……
テツシ:(スマホを見て)あ、ヨシキンさん動画アップしてるじゃん。これは見ないと。
リサコ:……。
テツシ:一人で帰れる? 終電まだあるよね?
リサコ:うん、ある。
テツシ:送らなくていい?
リサコ:泊って行ったらダメ?
テツシ:だから俺一人じゃないと眠れないんだって。
リサコ:そうだよね。
テツシ:じゃあ気を付けてね。
リサコ:ねえ、次いつ会える?
テツシ:あー、仕事でちょっと予定見えないから、開いてる日あったあら連絡するわ。
リサコ:そう……あのさ、やっぱり送ってくれない? 大通りまででいいから。
テツシ:は?
リサコ:もう遅いし、近くの公園で変質者出たらしいし。
テツシ:え、マジで?
リサコ:うん。だから送って欲しいんだけど。道沿いに桜咲いているところあるから、夜桜も見れるし……。
テツシ:多分、大丈夫じゃない? リサコ強いから。てか、弱い女って見たことないよね。女ってみんな強いじゃん。俺の方が怖くて逃げちゃう。
リサコ:本当にクズだね。
テツシ:だからそう言ってるじゃん。でも中途半端に優しくする男の方がもっとひどいと思うよ。俺なりの配慮。
リサコ:あっそ。
テツシ:じゃ、気を付けてね。
リサコ:うん……。
テツシ:リサコ。
リサコ:なに?
テツシ:かわいかったよ。
(間)
リサコ:(モノローグ)誰にも話せない。誰に話したって、きっと理解してはもらえない。愚かだと自分でも分かっている。どうしてこうなってしまったのだろう。
それでも、テツシの手を拒めないのは、寒いから。
寒くて寒くて、凍えるのが怖いから。
特にこんな、桜がきれいで、きれいで、きれいすぎる、花冷えの夜には。
【完】
はなびえのよるには (1:1)