待ち人は溺れている

待ち人は溺れている

待ち人は溺れている

波のない海が広がっている
風も吹かない
空は青いまま
何も起こらない日に
カモメも飛ぶのをやめて
魚はどうしているだろう

手に持ったアイスだけが
溶けて地面に落ちていく
暑いらしい今日を
感慨もないままに

麦わら帽子のおじいさんが
「これじゃあ、ただの塩辛い湖だぁ」
と、船の前で嘯いて座り込んだ

太陽は同じ位置にずっと居座って
月へ椅子を譲る気があるのかないのか

何もかも停止した世界で
自転車を漕いだ男の子
風を受けて彼の麦わら帽子は飛ぶ

彼は構わずそのまま何処かへ走り去る
男の子は止まらなかった
秘密基地、駄菓子屋のアイスクリーム
彼の季節だけは動いてる

私の時計はひび割れて
もう動くことを諦めていた

凪いだままの海を見つめて
いつまでも風を待っている
自分の位置を動かすことも
自分が走ってゆくことも
何もしないままで
停止した世界で
波を待って
風を待って

何も起こらない、この日を、
溶けたアイスに群がる蟻の、
働く姿に自分を嫌いながら、
私だけが停止している世界
麦わら帽子のおじいさんと
並んで座り込みながら
何もない今日を眺める

波のない海が広がっている
風も吹かない
空は青いまま

壊れた時計
自転車の少年
溶けたアイス
働き者の蟻達

何もせずに
波を待って
風を待って

待ち人は溺れている

待ち人は溺れている

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-03-13

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