七月七日

 今日は七夕です。そしてわたしの、十回目のおたん生日でもあります。でも、本当のおたん生日ではありません。今日は、わたしが、お母さんにさらわれた日、わたしがお母さんのモノになった日、という意味においての「おたん生日」なのです。
 お母さんは今お仕事で、家にはわたししかいません。でも、わたしは、手や足に「カセ」というものをはめられていて、身動きできません。そばには、アヒルのかたちをしたおまるしか置かれていません。わたしに与えられているものといえば、今手にしているシャープペンシルと日記帳と、ちびた消しゴムだけです。わたしはさらわれてからずっと、日記ばかり書いています。ゆいいつの「ゴラク」です。
 遠くから、おはやしが風に乗ってきこえてきます。この町では、七夕の日に夏祭りを行うのです。昨日はものすごく暑い日だったけれど、今日はほどよく涼しくて祭日和といえます。外に出たことがないからわからないけれど、お母さんに聞いた話によると、お山の方にある大きな神社を中心に屋台がずらっと並び、お神楽のための舞台が組まれているらしく、そこへ向かうまでには、たくさんのちょうちんや色とりどりの短冊がかざられていて、「それはそれは気がくるいそうなほどのながめ」なのだそうです。参加してみたいけれど、ゆるしてもらえそうにありません。なにか口ごたえをすれば、きゃたつに正座させられ、えんえんムチをあびせられます。だから、だまっておくのがけんめいです。
 わたしを生んだ、本当のお母さんとお父さんは、今ごろ刑務所で、罪をつぐなっているところでしょう。だからその子どもであるわたしも、このようなバツを受けなければならないのでしょう。今のお母さんから「大切なもの」をうばうという、ヒレツなことをしたのだからしかたないと思います。
 いよいよ町じゅうがにぎやかになってきました。ふだんは静かなところなのに、人の声がひっきりなしに聞こえます。今年は浜の方でだいきぼな花火大会も行われるそうです。いいなあ。
 祭りは見られそうもないので、わたしは、わたしのおたん生日を祝うことにします。おかあさんは十才だというけれど、前の分も合わせて、祝います。そしてわたしは、わたしに祝福の言葉をおくります。
 二十歳のわたしへ――おめでとう。

七月七日

七月七日

  • 小説
  • 掌編
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-12-14

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