マルケサスの砂
入り江にて
君は覚えているだろうか、二人で行ったあの無人島の真っ白い砂浜を
誰もいない砂浜で手を繋いだ二人を見守ってくれたのは波の音だった
君は遥か沖に湧き上がる積乱雲を見て、
こんなに真っ白な入道雲は始めてと目を輝かせていたね。
そこで僕が拾った椰子の実をヨットのデッキに転がしていると
「まるで私たちみたい」と少し悲しそうな顔でそれを愛おしそうに抱いた
「ああ、確かに僕たちみたいだ。僕が拾って君が実をつけるんだ」
僕は笑って答えたが君は微笑み何も答えず暫くそれを見つめていた。
君は覚えているだろうか、あの日君が身につけていた青いビキニを
誰も見ていないのに、これだけじゃ恥ずかしいからと島の伝統柄のパレオを纏っていた。
僕がビキニだけでも素敵だよといっても、それをのけることは無く
とったのは僕で、二人が愛し合った時だったね。
君はもう忘れただろうか、セール一杯に貿易風を受けて走るあのヨット(ふね)を
日焼けが嫌だといつもオーニングの下に隠れ、サングラスをかけて美味しそうに冷えたビールを飲んで
「あなたも一口飲む」と差し出してくれたことを
あれからまもなくのことだった
「次生まれ変わったら、必ず私を見つけて。私もあなたを見つけるから」
そういって一筋の涙を残し君は僕の元を去り、半年後あの日見た雲のような真っ白いドレスとベールに包まれ教会に立っていた。
君は幸せでいるだろうか?
今僕は一人マルケサスを訪れている。
君と一緒に来るはずだった、楽園の島マルケサスに
砂浜を歩くとき、思い出す
君と愛し合ったあの日のことを
白い砂浜に寄せては返す波の音が、君の事を思い出さす
その君は今も変わらずあの日のまま
コンサート
あれはコンサートの日
入場を待って並んでいると、目の前に君を見つけた
手を出すと触れられ距離
「さよなら」そういったあの日のままの君
隣にかわいい子供
無邪気にはしゃぐその子に君が微笑む
その笑顔も昔のまま
「元気だった?」
それさえ声をかけられない掛けてはいけない自分がいる
あれは君が23のときだった
一緒に海へ行ったね、覚えているだろうか
はじめてのキス
そう、でももう過ぎたこと
それは僕の胸の中だけの思い出
涙で消えた僕の記憶
開場になり、人ごみに紛れ君は僕から遠ざかる
まるで神様が一目だけ僕の願いをかなえてくれたよう
手を伸ばせば触れられる君、あれは幻だったのだろうか。
マルケサスの砂