春めく

(くるしい)と口遊み、海底を眺めた少女。ラ・テナ、というなまえの、ひとりの異星人と出逢い、世界の見方が変わったのだと語る、お花屋さんのひと。川沿いの、クレープやさんのパンダのこどもが、ぼくのあしもとで、ころんころんしている。もう、まもなく、桜が咲くので、なんとなく浮足立っている。今日この頃。

ま ぶ し い

(目覚めるのです)冬のあいだ、眠っていたものたちが。生命が、あらたに息吹き、星を彩る。お花屋さんのひとが、白い花の花束を抱えて、配達に出かけ、一度、深海に沈んだ少女が、ラ・テナとパンケーキを焼く。パンダのこどもが、だれかにもらった恐竜図鑑の内容を飽きずに、ぼくに話して聞かせてくれる。ユウティラヌス。メガロサウルス。ラブドドン。クリオロフォサウルス。意外と、しらない恐竜が多いことに、おどろく。パンダのこどものおとうさんが、ぼくのために、いちごのショートケーキクレープをつくってくれて、それから、今夜も、ごはんを食べにおいでよと、微笑んでくれる。すこしの罪悪感は、甘美で、中毒性があって、パンダのこどものちいさな手は、ときに、もっとおおきな手を思い起こさせて、ふいに、どきりとする。

 春がきて。
 植物が芽吹くように、愛もうまれて。

春めく

春めく

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-03-07

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