エンドマーク

 金曜日には、あのカフェにいた。月のひと。地球に降り立ってから三日。はじめてできたともだちは、月初の頃、深夜に徘徊する、おおかみ。細くて長い、いまにもぽきりと折れそうな枝みたいな指で、かれらのせなかを、恭しく撫でている。この星は、こんなにすばらしいいきものがいるのですねと、感動しながらもふもふしていて、ぼくは、むかしはもっといたんですよと思いながら、午前零時の、カフェのテラス席で、真夜中のクリームソーダ、というなまえのクリームソーダを飲んでいた。遥か頭上を飛んでいる、飛行機の音が近くにきこえるくらい、空気の澄んだ夜を、月のひとは好んでいた。
 二十四時間、いつも、あそこの水族館は営業している。
 さかなたちは眠っている。
 イルカも。ラッコも。あざらしも。
 眠っているものたちを観賞する、にんげん。
 やがて、氷河期がくると予測している、テレビのなかの研究者が、ぼくらの日常に一グラムずつ、不安を落とし込んでゆくように。月のひとは、語る。星の終わりについて。ぼくは、こわいので、きいているようで、きいていないふりをしていて、つまりは、ききたくないのに、わすれられないでいる、という感じで、すこしだけ月のひとを、うらんでいる。
 月のひとに撫でられながら、おおかみは、じつに退屈そうに、あくびをしている。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-03-06

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