宇宙ソースとデスマーチ

宇宙ソースとデスマーチ

バタフライ効果の目撃者

季節の端で蝶が翅を広げた
小さな風は西風と混ざる
この世の隅に混沌は在る
そこに深淵の瞳が開く

季節の端で蝶は初めて飛ぶ
向かい風など気にしなかった
混沌は地図の角から侵食を始め
深淵から暗闇が這い出て来た

季節の端で蝶が舞う
風が吹いて
混沌は街を闊歩
深淵は誰かの瞳に住む

五月の空虚を嘘で埋めて

さつきに咲くつばき
嗚呼、嘘ばかり

さみだれに鳴くキリギリス
ああ、空虚な日日

なにもなくなり
わたしもいない

嘘、嘘、嘘
虚、虚、虚

さつきに咲くつばき

さみだれに鳴くキリギリス

幼児の夜川わたり

川を渡るわらべ
ひとりにするなと
鬼も仏もいま何処?

あわれ、わらべは
夜川を、ひとりわたる

わらべ、何を見ている?
わらべ、何を思うか?

わらべをなぐさむ歌も無し

川の流れがあるばかり
川のせせらぎあるばかり

あわれ、わらべは
夜川を、ひとりわたる

実存を踊る女神

折角のダンスシューズなのに
空の上で舞うことは失礼よ
大地の上に立つの
そして重力と踊る

風が吹いたなら
音楽を奏でて
遠くまで
その音よ

泣いてしまいたい日日
それでも私は踊ったわ
生きていると見せつけて
オーダーメイドの
ダンスシューズで
重力といつまでも

決死の崩壊に焦がれて

崩壊する光が好きだ
ステンドグラスは
鮮血に染まって
僕の瞳の中へ
壊れた光が
放たれて

螺旋階段の途中から
ずっと白昼夢が終わらない
この建物の意味も知らない

光が崩壊をはじめて
シンボルは意味を失う
暴走する色彩が胸を焦がす

人の言葉なんて知らない
全てを壊す決意の眩しさ

起床のうた

朝が来て
咲いた思考
閉じる精神
月の気配は
未だ消えず
太陽が迫る
人々の生活
その中に
私は入れない
夢想ばかり
それだけを
生活と呼んで
綺麗なものの
光の収拾を
仕事と呼んで
嘲笑される命
左手首が熱い
口惜しさを
切りつけて
泣き方を忘れ
微笑む今日を

海底団地

波の音がする住宅街
貝殻が落ちてる公園
夜もすがら泣いて
朝ぼらけ腫れた目
ベランダからは白波
空き地にはヤドカリ
溢れてしまったもの
波にのまれていく傷
目に染みるパラソル
潮風にしみる左手首
浮き輪で登校する子供
行き先のない感情は
波に乗ってくれない

共感性罵倒

ボクよりボクを知らない他人に
ボクのなにかを預けることは無い

だから他人の言葉の軽さで
この店が宙に浮く前に
お金を置いて地上に降りる

他人の言葉がまったく
響かない心の硬さを
背中に罵倒された夜

前を向くことで
必死なんだから
後ろは見ていられない

滲んだ景色でも
前だけを見て

月に置き去り

月は凍って
その上を兎が
冷たさに耐えきれず
跳ねて、跳ねて、何周もする

私は靴を履いていても
凍らない土の上を
恐る恐る歩いて
すぐに戻った

瓦礫の中で見つけた
ロケットの破片には
救難の文字が彫られ
私はやるせないまま
弱った心が月に見透かされ
言い訳ばかりをここに並べて

涙腺のうた

泣いても尽きない
涙は確かにあった
枯れた井戸の心に
なにがあったか
尋ねることなく
平坦な道も恐ろしく
怯えながら今朝も目を覚ます

泣きたがる心は何処にいる
水は汲めないまま
荒野の中で
恐れている

後ろの破裂音が
真後ろに来たら
泣くこともないまま
私は音に消されるだろう

洗面器航路

船がゆく
洗面器の上
玩具の船が
水の中、
音を立てて
手を入れて
波を起こし
船は転覆す
子供は笑う
また、
船がゆく
洗面器の上
玩具の船が
音を立てて
旋回を続け
外は雨、
洗面器の上
晴天なり
航海路の
波は荒く
ふたたび
船は転覆す
子供は笑う

何も無くなるのなら

光も輝きも見えないままに
ひとり覗いていたのは
何処の窓だろう

忘却という優しさにもたれ
恋も友情も漂白され

孤独というほど強い芯は無い
厭世というほど強い芯は無い

ただ、心に誰もいないだけ
ただ、心から景色が消えただけ

愛を与えられなくなったから
憔悴して衰弱する心を持て余して

宇宙ソースとデスマーチ

虹が出ている真夜中
何故か視えている
夜半の群青へ七色
流れ星が旋回する

空は混迷している
誰も見ていない夜
僕は布団の中で、
確かに視えている

宇宙のコードにバグ
異星人のデスマーチ

朝までブルーライト
瞳は充血して
眼球は回る
しかし
僕の熱源は
宇宙と繋がる
ブルートゥース

Lilith II

自由と欲望の境界は曖昧に
禁欲の果てに神を冒涜した日

罪も罰も知らぬ無垢な瞳で
神の名を口にした日

雷鳴轟く
午後二時
使者の羽根は燃え
空に黒煙が舞う

数値化される命
暗号化される祈り

肉体に縛られる刹那、
大罪に誘われる人類を、
一人目の女神が嗤って掬う

林檎に冤罪
蛇に濡れ衣

燃えさかる月に

月の火が燃えていた
火の粉が雨のように
地球にふりそそいで
熱くはないのに
ただ哀しかった
人々は跪いて
臆面もなく
泣き出した

火の粉の中に
優しい記憶を見た
それでも埋まらない
隙間だらけの心は乾燥して
火が燃え広がっているのに
私はひとつも泣けずにいて

ただ灰になる時を待っていた

夢色事変

街は夢の色をそのままに
朝をむかえていたから
商店街が淡い色をして
ユニコーンが闊歩して
メリーゴーランドの光
わたあめが浮いている

勤勉なあの人も
上を見上げて
呆けていた
みんなが
染まる

夢の忘れ物は
交番に入り切らず
溢れた光が人を蕩けさす

その中で居心地良く
再び私は夢を見て

辛辣な春

土の中から這い出た
春の体は湿っている
冬着のままむかえて
これまでの話をする

君は、
自分のことばかり
世の中に無頓着だ

そう言われて黙る
お茶はさめている
淹れ直す気もなく

春は苦手だった
花と一緒に傷口が開いて
雪が隠した感傷を日に晒すから

皆に愛される春が
私は苦手だった

ウツリギ

一過性の感情に躍ることは
とても人間らしいとされ
推奨され賞賛され
毎日パレード

枯れ木を見ていた
いつも、木々を見て
人の心はわかるとも
しかし、変わるもの
木々に嘯いている
肥大化した期待に嫌気

花をつけ
葉をつけ
枝を晒し
また花をつけ
お前も人と変わらない
しかしお前は裏切らない

無知の血

世界にまだ私が居た頃
カッターナイフで切った
青い点線は海溝になった

シラを切って笑っていた
誰にも視えない不安の種
机の上に無言の叫び
頭をぶつけて笑う

優しい言葉に投げつけた鋏

解釈は危険、まちがいだらけ
国語で教えられた嘘で生きる

私に作者の何がわかる?
君に私の何がわかる?

偽装の芸術論

ペテン師の使う色
そんな絵画だった
ありがたがって
寄贈と書かれて
何もかも嘘だった
そこに映る人の顔
卑しい笑みを微笑と
傷だらけの全体像を
葛藤だ苦悩だと名付け
それを肩書き蝸牛が有り難がって
絶賛、賞賛、裸体の権力者の揶揄
しかして、
嘘を嘘と言えば虚しくて
私の色彩は乏しくて

宇宙ソースとデスマーチ

宇宙ソースとデスマーチ

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-03-05

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. バタフライ効果の目撃者
  2. 五月の空虚を嘘で埋めて
  3. 幼児の夜川わたり
  4. 実存を踊る女神
  5. 決死の崩壊に焦がれて
  6. 起床のうた
  7. 海底団地
  8. 共感性罵倒
  9. 月に置き去り
  10. 涙腺のうた
  11. 洗面器航路
  12. 何も無くなるのなら
  13. 宇宙ソースとデスマーチ
  14. Lilith II
  15. 燃えさかる月に
  16. 夢色事変
  17. 辛辣な春
  18. ウツリギ
  19. 無知の血
  20. 偽装の芸術論