旅情の果て

旅情の果て

旅情の果て

アメリカで桜を見て
イギリスでは錦鯉を見ましたよ

どちらも見事なものでした
その国の方々も誇らしげに
私に見せてくれました

遠い異国の(国名は今とは違った)
国境付近で和食を食べましたよ
醤油の味が私の舌先で痺れて
難解な味をしていましたし、
独創的な色彩をしていました
ですが、その国の人たちの
優しいもてなしに感涙して
私は皆で異国の和食を囲むことに
この上ない幸福を感じながら、
深く青い異国の星空を見上げていました

或る日のエジプトの空は
私の故郷の空の色と
大差なく見えました
よく晴れた日に
ピラミッドを
遠くに眺めて、
何故か子供時代の田園風景を思い出したのです
それをスフィンクスに見透かされたような気になり
私は帽子を取って頭を下げて、
焦る気持ちで
それでも丁寧に
挨拶を致しました

或る年には、
砂漠を気の済むまで彷徨った後
私は寒い土地へ移動を始めました

極寒の地にキャンプを設営して、
同じ目的の仲間達と火を起こして
私とその仲間たちはこの土地にて
どうしても見たい鳥がいたのです

ところで、
その土地のお茶(?)は私には濃すぎて
私の胃痛は終始止みませんでした

鳥は湖から彼方へと飛び立って
私は小さくなって白く光る両翼を
件のお茶(?)の入った
銅製のマグカップを持って
胃痛に気が遠退きながら眺めていました

………。

……………………………………。

まだ、旅の話はたくさんありますよ
ええ、あなたはお仕事がありますね
だから、またお会いした時にお話しましょう

心臓がね、五月蝿いのですよ
また、あの旅がしたいと鳴いて
騒がしくしているのですが、
私の神経はあの旅路に降り立てません


だから余計に哀しくて
心臓は焦っています
思い出も読み尽くされて
今は元の形を忘れるほど
脚色されて語っています


新鮮、
それが必要なら
色を変えても仕方がない
私は全てを忘れて再び旅に出ます


ええ、神経回路の裏を通って
秘密裏に、出国する予定です

あなたに、また、
私の冒険譚を聞かせて
そうして今度は美味しい番茶を飲んで
私の心臓と神経のわがままを聞いてあげて


それから、
長く長く、
私は眠りたいと思っていますよ

旅情の果て

旅情の果て

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-03-01

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted