女神
ルル。月光を浴びた寝台に、花が咲く。埋もれて。慈しんでも、先生は、だれも愛せないで、寂びれたホテルの部屋で、脱いだ古い殻を悩ましそうに、撫でる。ぼく、という存在を、わすれてしまったの?あなたはぼくに、懇願した。あたらしい私をみてくれと、縋るように言ったのに、先生は、いま、ベッドに横たわる、ぼくを、はじめからそこにいなかったみたいに、あつかう。ぼくを愛せないくせに、愛してもらおうなんて思わないでよと、ぼくは静かに憤りながら、たばこくさいシーツと同化して、よどんだ空気になる。朝になったら、みんな、ルルになっていればいいのに。世界でいちばんきれいで、無垢で、やわらかくて、まっしろな画用紙のようで、何色にも染まれる。ルル。ぼくから分裂した宇宙で、自由と平和を謳ってる。
女神