あなたお幾つかしら

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真珠の耳飾の少女にあって


 先日恋焦がれていた「真珠の耳飾の少女」に会うことが出来ました。
入場を待っていると後ろのご婦人から声が聞こえてきます。
「これな、前大阪に来ていたの」
「え!これが大阪に?!」
お友達でしょうか一緒に並んでいるご婦人が驚いたように答えました。
「そう、天王寺にね来てたのよ」
なかなか良くご存知の方もいらっしゃるようで、その方はクリーニングされた今回の絵を楽しみにされていたようでした。

 さて私たちも入場しますと、暗い室内にはスポットを浴びた大小の名画中の名画が並んでおり、ライスダールの「漂白場のあるハールレムの風景」ルーベンスの「聖母被昇天 (下絵)」、レンブラントの「自画像」等々、感心しながらまた、驚きながらそれをみて回ります。
「とにかく絵の上手さで勝負しようなんて考えないことやね、名手は星の数ほど居るのだから」と嫁さんに言ったほどです。

 次の部屋は入り口からそこだけ雰囲気が違います。
そこは一枚の絵の為だけに用意された部屋で壁にはガラスで囲われた「真珠の耳飾の少女」がありました。その40cm四方よりやや大きめの少女の絵は離れていても存在感があります。
 愛らしく肌の色も美しい彼女は、遠い異国の地からはるばるやってきたのもかかわらず、疲れも見せずその魅力的な表情で迎えてくれ
「ようやく会いに来てくれたのね」とでもやさしくささやかれているようにも感じます。多くの人が近くで見ようと列を成して並んでいますので私もそこに並びます。やはりここまで来たら直ぐ近く目と鼻の先ほどでも見てみたいものです。
中盤まで進んだ頃、後ろにいる娘ふたりがこの少女について話をしだしました。
「この子何歳くらいやろ」
「20代やない?」
「そうかな??もう少し若くない??」
「そういわれたらそうかな? 10代?・・・それにしては大人びてない?」
面白い会話なのでつい私もそれに加わってしまいます。

 この「真珠の耳飾の少女」はあまりに有名ですので皆さんよくご存知でしょう、映画にもなったほどです。アカデミー候補に上がったこの映画はイギリスの作品だそうで、なるほどイギリスの映画らしく当時のデルフトの生活やフェルメールの光が上手く表現された作品は私の好きな映画の一つとなっています。
 その映画でコリン・ファース演じるヨハネス・フェルメールがスカーレット・ヨハンソン演じる下働きの女性グリートをモデルに絵を描くというストーリー。その絵がこの「真珠の耳飾りの少女」なんですが、この俳優では残念ながら肌が違います。私たちのような湿度が多いところにすむ東洋人と乾燥地域の西洋とでは肌の潤い、肌理が違い圧倒的に日本人の肌がしっとりと綺麗だと思います。予断になりますがこの耳飾は本物の真珠ではなくフェイクだそうで、天然真珠しかなかった当時このような大きな真珠は無かったそうですね。それを知るとちょっとしらける気もいたしますか。

 私は娘の会話に釣られるように二人に話しかけます。
「あのね、今だとフィギュアスケートやっているだろ!?」
スポーツ好きな我が家はテレビでは嫁さんの影響もあり良くスポーツを見まして、今だとフィギュアグランプリシリーズなどを観戦するわけです。
「その女子の選手見てごらん、ジュニアから上がってきた選手とコストナーの顔の違い。あの人たち大人びて見えるしメイクも舞台映えするようはっきり描くけど、肌のみずみずしさ、きめの細やかさは隠せん。やはり若い選手は肌が綺麗です。この少女は17世紀、いい化粧品があるわけではないから、この肌をもつ少女としたら10代の女の子にならないかな?? 勿論もっと上の女の子で肌を美しく書くことはあるけど他の肖像がと比較してもナチュラルな肌やし」
ひそひそ話しでそんなことをいうと
「なるほどなぁ・・・そういう見方もあるのか」と少し関心したのか、新しい観点を見つけたのか声を出しました。

 そんな会話をしながら正面まで参りますと、フェルメールらしい薄塗りの彼女は思ったより薄いブルーのターバンを巻き少し開いた唇は艶やかで愛らしい。
驚いたようでもなく、呼び止められたようでもなく、それでいて無理にポーズを取って振り向いているようでもないその少女に、私は今でいう映像効果的な感想を持ちました。
 つまりこの少女は正面を向いているのですが、誰かが内面に声を掛けた。ですからその感情だけは声を掛けた左側の人、それが恋人なら尚ドラマティックですが、その人と会話をするかのよう。今だとそのシーンが映像として表現できるのですが、この当時にはそれが無い。だからこれは彼女の心象表現の絵ではないかと感じます。

さてそこにはいったいどのようなドラマがあったのでしょうね。
少なくとも
「ねえ、スマホ買って!」とは言っていないだろうと思います。
少女の素直さを持っているけど大人の女性も感じさす微妙な雰囲気に加えて、東洋的にも感じられる彼女を帰り際もう一度見ると
「次に会えるのは、私の家・・・待ってます」
そう訴えかけられているよう感じられるのは妄想癖のなせる業。

特定のモデルを描いたわけではないだろうとか、彼の恋人だろうとか、名画らしく様々な憶測が飛び交いますが、一度その絵をごらんになり、カフェでコーヒーでも飲みながら

ねえ・・・あなたは誰??・・・いったいお幾つなの??

女性に年齢を聞くものではないのですが、この少女について妄想を広げるのも楽しみの一つだと思います。

あなたお幾つかしら

あなたお幾つかしら

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-12-13

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