非魔女。
泥濘んだ地面に足を取られ、何度も転びそうになりながらも走る女がいた。
紫色のコートを着た彼女の全力疾走を見て、只事ではないと悟った。
深夜1時1分。
紫色のコートの女はその場に佇んだ。
彼女の前方には、自動販売機の妖しい光に照らされた同じく紫色のコートを着た集団がいた。
女は1人、その場で震えた。
集団のうちの1人が彼女に手招きをした。
女は震える足で集団の元へ向かう。
集団が彼女を囲んだ。
「ご、ごめんなさい! 大変申しわけありませんでした!」
女が泣きながら、土下座をした。
「……釘バット」
集団の中で1番年配に見える人が呟いた。
それを合図に、女を囲む全員が釘バットを構えた。
「ひ、ひぃっ!」
悲鳴を上げた女へ向けて、一斉に釘バットを振り下ろした。
ぐぎっ、ばごっ、ばぎっ、ぎちょ、ぐちゃ……。
1度だけでは終わらず、何度も何度も。
固いものが肉を打つ、何とも不快な音が夜道に響き渡る。
彼女達は「湿気の魔女」。この街で魔女に憧れた女達が魔女ごっこをする、カルト集団だ。
湿気の魔女が定期的に開催する「湿気の魔女集会」に遅れた者は、「非魔女」と認定される。非魔女は「非魔女狩り」の対象となり、湿気の魔女から死刑が執行される。
釘バットを振るう音が止み、魔女達の談笑が聞こえてきた。
この街は、今夜もアングラ街として健在だ。
非魔女。