理想の爪

「爪がない」
「うん」
「爪が生まれつきないの」
「うん」
「あなたは?」
「私はあるよ」
「どうして?」
 そう質問した彼女はとても綺麗だった。美しい造形。ああ、これは琥珀金である。でも彼女はいつも放課後になると私を誰もいない教室に呼び出して「どうして貴方には爪があるの?」と言った。
「でも貴方はとても美しいわ、それで、満足じゃない」
「うるさい。こんなんじゃ誰とも手を繋げることはできないわ」
「そんなの誰も気にしないでしょ?」
 すると必ず彼女はいつも泣いて「どうして貴方に爪があってワタシにはないの?」とワンワンと叫んだ。

 だから彼女はいつも赤い手袋をしていた。

 カエル先生は朝から腹が痛いと文句を言いながらレモンスカッシュを飲んでいた。
「先生」
「なんだ」
「そんなに飲むからお腹を壊すんですよ」
「壊すのは構わん。痛いのがいやなだけだ」
 僕がボールペンを回しながら校庭を見ていると、美しい女の子と美しくない女の子が2人で歩いているのが見えた。
「先生。僕、今、恋をしました」
「ほう」
「あの美しい女の子に恋をしました」
 カエル先生はレモンスカッシュをジュルジュルと飲んでから「だが、この炎天下に両手に赤い手袋をしている。何かを隠している気がするが、それでもよろしいかね」と言うから「そんなの別に関係ありません」と僕は言った。それから僕はカエル先生に聞いた。
「カエル先生はどんな子が好みなんですか?」
 カエル先生は答えた。
「年をとると、若けりゃみんな可愛く見えるもんさ」
 カエル先生はレモンスカッシュを飲み干してからゴミ箱に放り投げて「便所に行ってくる」と述べた。
 赤い手袋の女の子は美しくない女の子を思いっきりビンタをしているのが見えたのは、数秒後だった。でも泣いていたのは美しい女の子で、もう一方の女の子は笑っていた。

理想の爪

理想の爪

爪きるのは面倒だ

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-02-14

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