熊の着ぐるみの男。
思わず、悲鳴を上げそうになった。
自動販売機と電柱の間に、熊がいた。後ろ脚で立っていた。
びっくりして、立ち止まる。
よくよく見ると、本物の熊ではないことが分かった。熊の着ぐるみを着た人間だった。
熊の着ぐるみの人が、真っ暗な路地裏にある自動販売機と電柱の間に俯いて立っていたのだ。
恐る恐る尋ねてみる。
「あの……何してるんですか?」
熊の着ぐるみの人はゆっくり顔を上げると、掠れた声ながら嬉しそうに言った。
「俺が……見えるのか?」
声からして、男だった。
それにしても、どういう意味だろう。僕に、君が見えるかどうか?
「そりゃあ……」
あれ……もしかしてだけどこの男、幽霊?
「この熊の着ぐるみ、ペストマスクを被った男から貰ったんです。『これを着れば、君はこの街で注目の的だ』って」
熊の着ぐるみの男の声が震え始めた。その感情は怒りか、悲しみか。
「……でも、何も変わらない。彼はペテン師だ。今でも殆どの人が俺を無視する」
「ロケーションが悪いんじゃない?」
誰が来るの? こんな小汚くて危なそうな路地裏。
熊の着ぐるみの男。