毒魔女。

毒魔女。

 夕暮れ時、高架下には魔女がいる。
 年中湿度の高いこの街には、そんなアングラ街らしい都市伝説がある。
 分厚い曇り空の上から濃紺色が覆い始める頃、より一層薄暗い高架下へ向かう。
 重い憂鬱が漂う空間で、俯いた住人達が居酒屋の開店準備を始めていた。
 りりり、りん。
 電飾看板が、毒々しい妖しさを持つ紫色の光を放つ。
 いた。
 薄暗い紫色に照らされて、電飾看板の横に真っ黒なコートを着た女が立っている。
 目元までフードを被り、顔はよく分からない。コートもぶかぶかの為、身体の輪郭もはっきりしない。
 その見た目は間違いなく魔女だった。都市伝説通り、年齢不詳の魔女が高架下に立っていた。
 魔女の反対側にある自動販売機の横で1mgのピアニッシモに火を点けて、鬱々とした空気中に煙を吐き出す。
 魔女の元へ、紫色のワンピースを着た少女がやってきた。
 何やら会話をしている。タバコを吸いながら耳を欹てると、数字が耳に入ってくる。「11」、「11×59」、「649」……。
 紫色のワンピースの少女は、魔女に茶封筒を渡す。魔女は中から取り出した札束のうち何枚かを紫色のワンピースの少女に渡した。
 紫色のワンピースの少女は軽く会釈をすると、どこかへ歩いていった。
「毒魔女」。
 高架下の魔女は、この街でそう呼ばれている。自分で作った毒を「毒ブローカー」に売らせ、生計を立てている。先程紫色のワンピースの少女に渡したのは仲介料だろう。
 夕暮れ時、高架下には魔女がいる。
 年中湿度の高いこの街には、そんなアングラ街らしい都市伝説がある。

毒魔女。

毒魔女。

  • 小説
  • 掌編
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-02-13

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