二月の光

はじめに忘却がありそれから/
ここにいる
死体安置所で砂浜の夢をみていた
流れに削られて
 滑らかな粒のひとつになるならば
なにも望まなかった
 ぼくの持つすべていらなかった
(腐れた肉体が腐り切るのを待たなければ、此処を出られないだけの話だった。)

心臓の音がきらいだった 呼吸もリズムもだめで
みんなに合わせて手を叩くのがずれてしまうような
まいにち、だったな。
血の温度もこわかった、けど何度かひとをあたためたり、皮膚を剥がしたりして。きみをすきになってよかったです。


伝えられるうちに言うけれど
すてきな街でした。



(切符を買ったらこの街を出ようと思う。海へ行こうと思う。いつかきみが海みたいだと言っていた黒色を飛ぼうと思う。大気がない。重みがない。振動がない。からだがない。
わたしのいない星はいままでになく光を放って、汽車の翠の椅子が照らされるのを眺めている。
いつかひとり砂をすくっていた少女がいたことを通り過ぎて、死体安置所を通り過ぎて、もう幾つか駅を過ぎたさきで。はじめてカーテンが揺れ、目の前にだれかが、座っていたから。

魂は灼けてもう夢を見ることはないでしょう


もう声も出せないけど。
ねえ、ぼくたち。
ほんとうに長い恋だったね。

二月の光

二月の光

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-02-10

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