二月の光
はじめに忘却がありそれから/
ここにいる
死体安置所で砂浜の夢をみていた
流れに削られて
滑らかな粒のひとつになるならば
なにも望まなかった
ぼくの持つすべていらなかった
(腐れた肉体が腐り切るのを待たなければ、此処を出られないだけの話だった。)
心臓の音がきらいだった 呼吸もリズムもだめで
みんなに合わせて手を叩くのがずれてしまうような
まいにち、だったな。
血の温度もこわかった、けど何度かひとをあたためたり、皮膚を剥がしたりして。きみをすきになってよかったです。
伝えられるうちに言うけれど
すてきな街でした。
(切符を買ったらこの街を出ようと思う。海へ行こうと思う。いつかきみが海みたいだと言っていた黒色を飛ぼうと思う。大気がない。重みがない。振動がない。からだがない。
わたしのいない星はいままでになく光を放って、汽車の翠の椅子が照らされるのを眺めている。
いつかひとり砂をすくっていた少女がいたことを通り過ぎて、死体安置所を通り過ぎて、もう幾つか駅を過ぎたさきで。はじめてカーテンが揺れ、目の前にだれかが、座っていたから。
魂は灼けてもう夢を見ることはないでしょう
もう声も出せないけど。
ねえ、ぼくたち。
ほんとうに長い恋だったね。
。
二月の光