毒少女。

毒少女。

 灰色の空、凹んだ配管、小汚い室外機、側溝を流れる汚水……。
 そんな廃れた景色に似付かわしくない鮮やかな紫色が、落書きだらけの路地裏で靡いた。
 薄汚れた街路灯の隣に、紫色のワンピースを着た少女が立っていた。幸薄そうな顔は、憂鬱で覆われたこの街に合っている。
 少女は誰かを待っているようにも、ただ憂鬱で動けなくなっているようにも見える。
「あの……頂けませんか?」
 彼女の元に、がりがりに痩せた中年男が近付いていった。
 少女は無言で頷くと、左手を彼に差し出した。
「59」
 中年男は、分厚くなったぐちゃぐちゃの茶封筒を少女に渡した。
 少女は茶封筒を開き、中身を出した。出てきた札束を数える。確認出来たのか、少女は中年男に紫色のカプセル剤のような物を1つ渡した。
 中年男はゆっくり会釈をすると、覚束ない足取りで路地裏の奥へと消えていった。
 憂鬱に支配されたこの街では、毒がよく売れるらしい。
 闇の販売屋、「毒少女」。
 この街では、救世主なのかもしれない。

毒少女。

毒少女。

  • 小説
  • 掌編
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-02-09

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