海の底で見る夢は

 ノエルの声がして、夜明けの、海の底から。すこしだけ、まだ、ねむたいような声色で、ぼくのなまえを呼んだ気がして、つめたい砂の上から、海をみていた。街のはずれには、星の墓場があり、毎夜、降ってくる星をあつめる仕事をしているひとびとがいて、あつめられた星はまとめて、埋められる。宇宙から落ちてきた星の、成分も、構成もよくわからぬまま、土に埋めて、果たして、循環してこの星の一部となるのか、それとも、ただの屑として、毒にも薬にもならないのか。いまはまだ、実験的な段階なのだとテレビのなかでしゃべる、先生、と敬われるひと。媚びへつらう気もないのか、どこか夢遊病患者チックなニュースキャスターと、そもそも、チャンネル数の減ったテレビ番組。(ああ、ひとつずつ、確実に、いままであたりまえだったものが、うしなわれている)さいきんまで、呆れるくらい乱立していたのに、いつのまにか一軒しかなくなっていた、コンビニ。だれかに燃やされた、博物館。こどもたちごと、空にできた巨大な穴に吸いこまれたらしい、学校。フィクションが、ノンフィクションになっていく。この現実を、おそらく招いたのは、ノエル、きみなのだろう。
 深海の寝床で、まどろんでいる。

海の底で見る夢は

海の底で見る夢は

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-02-06

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