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引き出しの中から弾け飛んだ
夏休みの絵日記が見た悪夢
ふるえながら汗をかいて
恐怖の夏を語っている
ぼくは怖くなかった
蝉の声と同じだった
季節を忘れて虫が鳴き出した
かわいそうなぐらいに必死に
でもかわいそうなのは
いつだって、ぼくの方
言葉のせいで誰とも繋がれない
現代の漂流日記には書ききれない
独りよがりのままで生きてきて
それでもいいから息を吸った
誰にも見つからない森の奥で
ぼくの独り言は鳥の声を止ませる
さみしい心を持ちながら隣人に笑顔を向けている
自己犠牲と優しさと強さの違いを教えない
そうして強くて優しい人から消えてゆく
ぼくの夏休みは空欄と空白に青空がたくさん
余白にだけは本音を書ける気がしていた
誰か知りませんが、
あの日記帳のことを
間に受けたりしませんように、
ぼくが先にしんでしまえば、
あの日記帳は下手くそな解釈にまみれてしまう
そうなったら、季節外れの虫達の声はもれだす
町中に蝉の声が響いて、
屋根の雪を悪戯に落とす、
誰も読まないでとは言わないけれど
わかったなんて間違っても言わないで
筆者の言いたいことに模範解答をつけないで
どうせ、どうせ、ぼくたちには筆者の気持ちなんて、ひとつもわかりはしないのだから、そうしてそれを冒涜と呼ばずに教育と呼び出すから、業が深いまま、ぼくたちは呑気に卒業していくんだ
卒塔婆を蹴り飛ばすような真似をして
ぼくに解釈をつけくわえないで
哲学なんてものはない
感傷なんてものはない
言葉は言葉でしかない
かげろうが飛んでゆく、冬の空を
蝉時雨で雪が落ちる、枯れ木の上から
爆ぜた日から、ぼくの悔恨だけが
誰も彼も出ていった田舎に降り積もる
あいつは勝手なやつだったって
あいつは偽善者だったって
あいつは欺瞞だらけだって
誰かが言うから、
ぼくの幽霊は、
蝉の声になる。
断末魔と、吹雪。
さようなら、春。
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