月のうさぎ
手を。繋いでいたかったのに、きみは、容赦なく、ふりはらったね。あくまが、みていたから。
分離した。月からの新人類たちは、ぼくらの街に、地下シェルターをつくっていく。いつかはきっと、土のうえには棲めなくなると、予言している。月からの新人類のなかでもいちばんえらいという、しゃべるうさぎが、ぼくらとおなじ、二足歩行の新人類たちを率いて。
あくまのかたちを、きみはおぼえている?
ぼくは、あんまりおぼえていない。夕方の、空のオレンジの鮮やかさだけは焼きついている。それから、きみが、ぼくの手をふりはらった瞬間の、血液が凍てつく感覚も。付随した虚無感も。空に投げ出されて、あたまのなかで、すべての思考処理能力が停止した感じも。
しゃべるうさぎが、いうのだ。われらと交わろう、と。地球人同士では、どうせ、この先、ろくでもないにんげんしか生まれないだろうが、われら有能な新人類と交われば、きっと、すばらしいハイブリットがつくられるだろう、と。
うさぎは、腹立たしいくらいに、えらそうであって、ぼくの手をふりはらった、きみは、もう、その存在すらもあやふやな、あくまに、おびえている。
月のうさぎ