揺らいだ

 ふう、ふう、あつあつのココアをさまそうと必死なのがだれか、たしかめなくたってわかる。なんで、じぶんがこんなふうなのかは、わからないけれど。
 おにぎりがすき。おひるはいつも、決まったコンビニの、決まったおにぎり。うめと、塩むすび。食べながら、ああ、パンの包みを開ける音に、この耳は気づいてしまう。気づいてしまう、なんて、最低。無意識の意識が、そちらへずっと耳をそばだてている。かんたんなこと、それだけのことなのにな。このおにぎりの具を、味を、変えたらぼくは、どうなることやら。
 まもっている。あの、ふう、ふう、がねこ舌をまもるように。ただ、今日もぼくであるって、たしかめるために。変えちゃいけないんだ。ぼくを、たしかめるために。
 目の前で、ともだちが、スープをのんでる。その湯気と、きっとあの湯気とは、ぜんぜんちがう、かたちだ。それをたしかめることは、できないのだけれど。きっと。

揺らいだ

揺らいだ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-01-27

CC BY-NC-ND
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