傍観者
天の星の、どこか空虚な、ひびわれる音。中身のない、空洞をのぞいているみたいな感覚で、街を行き交う、しらないひとびとを観察している。
夜になったら、かぞえる。
生命が目覚める瞬間の、息吹の、なまあたたかさがわかるのが、ノアだ。人型の。人型でありながら、ひとではないものが、ノアだった。
きまぐれに、三百日前にコールドスリープにはいった、あのひとの、いまはもう、ただの機械のかたまりでしかない携帯電話に、電話をかける。解約されて、現在つかわれておりませんと告げる、抑揚のない声。そういえば、こういうアナウンスの声はどうして、おんなのひとの声ばかりなのだろうと、ふと考える。なんとなく、わかるのだけれど。おとこのひとでも、やさしく、おだやかな声のひとは、いる。
(ノア)
この街はすこしおかしいと、ぼんやりした様子で呟いたのも、ノアなのだ。
施設に行けば、眠っているあのひとに、逢えるけれども。ずっと、目を閉じているあのひとは、なんだか、わたしのしっているあのひとではないみたいで。ちょっとこわい。
それから、あのひとのように、コールドスリープをしているひとたちのカプセルが、整然と並ぶ光景も。
傍観者