冬にある夏
ほら、踏み潰しちゃった音がする。こびりついている。鼓膜はあの日と変わらない。こころのほうは、すこしずつ変わっていくのに。
靴の裏を、どうしても確かめることはできなかった。ぐしゃり、きっとだれかが捨て置いたスナック菓子の袋だと思い込んで、思い込みながら、暗闇のなかで靴を洗った。おかしたかもしれないなにかを、そのことを、確かめないままで。蝉の鳴く二十時の頃。朝になってまっさらになった靴をみて、洗い流せないものの存在を知った。
ほら、また音がした。きまって思い出す、冬の、静かな午後。つめたい空気で満たされた肺。繰り返す呼吸でだって、まだ、こびりついたままのそれ。囚われ続けていることに、正しさも、償いも、崇高さもなにも、ないってわかってても。まだ。
冬にある夏