泥と天使

天使が、ある冬の夜に墜落しました。
今晩は雪が降って大変な寒さでしたが、
蛙が、椿が、鴉が、みな、お空を見上げ、

星が、落ちるように清浄なひかりが、眩く地上に落ちてゆくのを見て、わあ、っと騒ぎました。

純白の翼は折れ、
そうして、輝かんばかりのお顔も、泥にまみれ、みんな汚れてしまいました。
天使はしばらく眠ってましたが、
蛙や、椿や、鴉はみんなわんわん泣きましたのでゆるり、と目を覚まします。

尊いものが、傷つくことこそ、なによりの罪なのだと、蛙が叫びました。

天使は蛙にありがとう、と言いました。そうして傷だらけの手で蛙や、椿や、鴉たちを慰めます。

椿は泣きます。あなたはもう帰れません。

天使は椿にありがとう、と言いました。

鴉はぼくでも、あの星には届かないやい、と言いました。

天使は鴉が、ほんとうは連れていけたらと優しく泣いているのを知っていたので、ありがとう、と言いました。

そうして、やがて夜が明けようとするとき、
天使はやがて、燃え始めました。ほんとうに熱くなって、みんな近づけないほどです。
天使は、この地上の、泥にまみれると、燃えてしまうのです。
なぜなら、美しいばかりの天使ですから…。

そうして、やがて、炎は下火になって、
すべてが静かになりました。

蛙は言いました。きっと、僕たちは美しくはないのでしょう。

椿は言いました。僕たちは泥にのたうちまわって、それでもみんなでこの天使を愛そうよ。

鴉は羽を広げ、二人を暖めました。

泥と天使

泥と天使

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-01-19

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