最果ての森

この世の最果てにとある森がある

魔物が()むというその森は
朝と昼が無く夜しかない

大人たちは 悪い子供を叱る時
皆口を揃えてこう言った

悪いことをするとあの森に置いていくよ
あの森には恐ろしい魔物がすんでいてね
魔物はやわらかい子供の肉が大好物なのさ
おまえのように美味(うま)そうな子供は頭から
むしゃむしゃと食べられちまうだろうね
それが嫌なら大人の言うことは聞くんだよ

いつからそうなったのか知れないが
よくない噂のその森は
いつのまにか墓場になった

墓場に()むのは墓場妖精
それらは若くして死んだむすめ
皆背中に羽を生やしている
惑わされし者に死を運ぶ

墓場妖精は死神の御使(みつか)
生者の生き血を(すす)るが如し所業
死してなお修羅となりて
怨嗟(えんさ)でその身を焦がす

夜の森に男が入ってはいけない
若い男はなおのこと入ってはいけない
妖精は若い男を森へ誘い(そそのか)
一晩中踊り狂わせて殺してしまう
妖精にとり殺されたくなければ
けっして森には近づかないことだ

墓場に()むものは死に取り()かれている
生者を引き()り込もうと
いつも暗がりから狙っている

妖精にとり殺されたくなければ
男も女も老いも若いも
けっして森には近づかないことだ

だれも夜の森に入ってはいけない
妖精と話をしてはいけない
ひとたび踏み入れば後戻りはできない
夜の森から帰ってきた者は誰もいない

己の命が惜しいなら
最果ての森に近づいてはならない

最果ての森

元ネタは、バレエ作品の『ジゼル』です。独自のアレンジを加えていますが、「墓場妖精」はジゼルに登場する森の精霊『ウィリ』を参考にしました。

最果ての森

その森は朝と昼がなく、いつまでも夜だった。どこかで、誰かに囁かれている、民間伝承のようなものです。

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-01-18

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