点Pの願い

如月瑞希(きさらぎみずき)

30分制限、テーマ:「ダイナミックな静寂」の二つの制約のもと書いた即興小説です。
数学はぶっちゃけ詳しくないです。

点Pは考える。
「動き続けることの簡単さとは裏腹に、僕にはこの世界(座標平面)から外へ旅立つ事が難しい。」

XとYと、そしてときどきZという友人はいるけれど彼らは僕を内側に収めたままで、外へと出ることは許してくれない。

点Pは考える。
「外の世界はどんなだろう」

果てしなく、それこそ∞の彼方まで勢いよく動くことのできるこの世界の中には色も無く、音も無く、ただ静寂だけが満ちている。
外の世界に満ち満ちているのは何なのか、どんななのか、好奇心ばかりが膨れ上がる。

点Pは考える。
「僕が外に出られないのはもう良い、諦めよう。でも、外から誰かを呼ぶことはできないかな?」

この3次元空間に外から誰かを呼びだすこと。
それが叶うなら、僕だって少しは「何か」を叶えることが出来るかもしれない。
それがひょっとしたら穴になって、こっそり僕が外へ出ることも出来るようになるかもしれない。

XとYは言う。
「外の世界にはもっともっとたくさんのものがあって、確かに面白いかもしれない。」
「けれど外の世界ではきっとすぐに、点Pの事は忘れられてしまうんだよ。」

僕はこの世界のたったひとつの存在で、そして僕の存在を保証するのはXとYと、ときどきZで。
XとYが外の世界を知っているって事を羨望と共に尊敬もしている。
それでいて僕を縛り付けたりしないXとYの事を感謝もしてる。

けれど僕は好奇心を抑えきれないまま、まだ見ぬ穴を求めてこの空間を動き続けている。

――――――

XとYは顔を合わせることが少ない。
そして中央に集って顔を合わせるときは確実にZもその場に姿を現して、二人の会話に口を挟んで来る。

XもYも同じくらい点Pを愛しているし、同じくらい「守ってあげたい」と考えている。
なのにZだけ、いや、Zも同じくらい愛しているんだけれど少し違う。

Zは言う。
「点Pの言うことも最もだ。確かに外の世界を知らないまま動き続けている方が点Pにとっても安全だし彼のアイデンティティを守るためには良いだろう。けれどたとえこの世界に戻ってこれなくなってしまう未来や、点Pがどこからもいなくなってしまう未来があったとしても私は点Pの意志を尊重したいとも思う」

それじゃいけない。
それじゃいけないと、XとYは声を揃える。

点Pは自分の存在がXとYに保証されていると考えている。
それは正しいけれど、それだけじゃない。
XとY自身も点Pがいなくなればその存在意義を失ってしまうのだ。

Zは重ねて言う。
「君たちの点Pを守りたい気持ちは理解できる。もちろん私自身だってその気持ちはあるけれど、その気持ちにある自己保身の成分はどれくらいあるんだい?それはもしかして、点Pの願いを押さえつけていたりはしないかい?」

そうじゃない。
そうじゃないと、XとYは声を揃える。

「点Pの未来のために」
「点Pの存在のために」

「点Pの願いを、聞き届ける訳には行かないんだ」
「点Pの思いを、踏みにじるしか方法はないんだ」

XとYは涙をこぼす。
この空間には重力も及ばない。
出来た物はまんまるな水滴。
まんまるでちっぽけな水滴。

それはXとYとZが出会ったその場所にとどまり続ける、新しい点Oになった。
それを見つめながら、XとYとZは再び沈黙する。
世界は静寂に包まれたまま、いまも果てなく動き続ける点Pの姿を見止める。

――――――

点Pは動き続けている。
この静寂に包まれた世界で。

点Pの願い

即興小説トレーニング(http://webken.info/live_writing/top.php)に初チャレンジしてみましたが中々面白い。
ネタ出しに苦しんでいた今日このごろ、何も考えず書けるのは頭の運動にもなって良かったと思います。

点Pの願い

30分制限、テーマ:「ダイナミックな静寂」の二つの制約のもと書いた即興小説です。 短いのでさらりと読んで下さると嬉しいです。

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