語られる女神

語られる女神

語られる女神

千夜一夜に入れなかった
成り損なった物語の破片
女神は微笑して手に取った
可哀想にね、

なりたいものになれるのならば
この名前をどうするだろう
女神の剣先は風を斬る
私は何処にいるのだろう
荒野の中、戦士の霊魂を導く

まつられて、たたえられ、
いのられて、おそれられ、
私の心はどこに行ったのだろう
鏡、剣、宝石、
或いは、シンボリズム?
何を見て、私を見つけたと言うの?

五穀豊穣の祈願の日には
雨を降らせてあげるのに
祈りの言葉は切実だから
私、泣き過ぎてしまったのよ
そして、あの子を残して、
みんなみんな、溺れていった
あの子は私を恨んでいる
そして私は悪魔にされる

あの子が次の王になる時に
私を打つ、新しい神を呼んだ
あいつは、私を打擲して
去れ、と一言呟いた

私、恥ずかしく思った
何をぼんやりしていたの?
剣が無くても、
やり返せたわ、
あの時、
張り倒してやればよかった!
それで済んだのに、
気が付いたら
またあの子を残して
みんなみんな流されていった
私はずっと泣いていた
新しい神の像も流されて
あの子は呆然としていたわ

私、あの子に厄災として語られるの

だから、今度の語り部さん
私を、封じるために
物語をつくるのよ

せめて、せめて、
ぜんぶ御伽噺にして
そうして二度と、
私を呼ばないで、
それから、
あの子を止めるために
面倒な儀式をたくさんつくって
そうしてくだらない決まり事も
何の意味もなくてもいいの
みんな後から付いてくる
それさえ信じていれば
みんな、
都合のいい神様を
また、
一からつくるから

私はもう、なににもなりたくないの

女神だった厄災は、
煙になったか龍になったか、
語り部は年々口が重々しくなって
だんだんと物語の形が変わっていく

禁忌とされたものごとを
やぶる子孫たちの前に
私は今、立っている

絶望も希望も尽きた
神様の成り損ないが
枯れ木のように立っている

語られる女神

語られる女神

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • ミステリー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-01-15

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