星が綺麗な夜のこと

一ノ瀬まち

「ねえ君、ちょっとお告げがあったんだけど」

今日はしし座流星群が一番の見頃なんだって。昼間に短刀の誰かが騒いでいたのを思い出す。突然修行に行きたいと言い出した僕を、主は目を丸くして見つめて、それから呆然と頷いた。
修行道具一式、荷物をまとめて、もうすっかり暗くなった空の下に立つ。確かに星が綺麗に見える夜だった。吐いた息が白い。大広間の喧騒が、遠くに響いている。

「兄者」

どたどたと慌ただしくやってきた弟が、何か言いたげにもにゃもにゃと口を歪めている。しかしやがて、言いたかった何もかもを飲み込んだように、一際凛々しい表情でこちらを射抜いた。

「――ご武運を」

きっと僕を呼んだその言葉のあと、もっと正反対の言葉を言いたかっただろうに。「行ってしまうのか」だとか、「何もこんな時間に出発せずとも」だとか、「兄者は抜けているところがあるから心配だ」だとか。きっとその胸の内には、たくさんの言葉が行き来している。
平安の頃、顔をぐしゃぐしゃにして「離れ離れは嫌だ」と泣いていた弟のことを思い出した。弟は泣き虫だ。こと僕に関しては。
だからどんなに耐えていても、心細いに違いないのだ。どんなに隠そうとも、細く震えた声とほんの少し滲んだ瞳に、この兄が気付かない筈がないのだ。

「ねえ、弟」

今日はしし座流星群の日なんだって。
空を指差す。つられて目線をあげる弟に、うんと優しく笑ってやる。

「星がよく見えるから、寂しくないでしょう」

離れ離れではない。僕はちゃんと、ここに帰ってくるのだから。そうしたら弟は「おかえり」と笑って、一番に僕を迎えるのだ。
ややあって、なんだそれは、と弟は笑った。

「行ってくるよ、膝丸」

星が綺麗な夜のこと

星が綺麗な夜のこと

tkrb二次創作。兄者修行前夜の源氏兄弟の話。 以前、極実装がしし座流星群の日だと知って書いたものです。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-01-15

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work