いざなう青

いざなう青

いざなう青

「もとめるからいざなわれる。
欠乏は一番身近な地獄の入口。」

美術品が並ぶ市場
ひとつも価値がわからない
審美眼など持ち合わせていない
良し悪しなど知ったことかと
全てにケチをつける心地で歩く

ただひとつ、
心惹かれる色を見つけて
そこに立ち止まれば
心は静まりかえった

(ありゃ、二束三文だわ)
(あんな酷い色は知らないわ)

ざわめきの中で小生にだけ見える
子供のころから探していた青の色
青に惹かれて、晴れて小生は生活破綻者

一文無し
惜しく無し
下宿も追い出され
行く宛もなく
全てを失って

ただひとつ、
青の一輪挿しだけを持っていた

あの日、ふっかけられた値段を高いと思わず
身の丈や身分や将来をなげうって買った

学校にも行かず
飯も食わずに
林の中に身を潜めて
くる日も、くる日も、
青を見つめて過ごした

これが小生の初恋であった
今まで散々莫迦にしてきた
恋が小生の胸の中で弾けた
破滅と莫迦が咲いた青春だ
この世の春は今ここにある

郷土の親族たちが探し回って
ある日小生は見つかってしまう
そこで小生は一度途切れてしまった

次に目を開けた時には、
小生は聖人のような心地で
病床にふせていた

倒れる瞬間も意識を失っても
青の一輪挿しを離さなかった

「何が見える?」
老賢人が訪ねて来た

青、青、どこまでも青の、
小生は郷土の秀才時分の喋りになる
しかし、言葉はそれ以上出てくることはない

「これは、人の心を喰う青だ。
そしてあなたはもう、手遅れだ。」

老賢人は後ろを向いた
小生は何故か安堵した

さあ、心中にて完結させよ
我々の春よ、破滅よ、恋よ、

両親の慟哭、
小生は息を引き取る

青や、青や、どこまでも、

小生はもとめた
そしていざなわれた

何も無かった小生の為に
咲いてくれた君へ、我が春を捧ぐ

いざなう青

いざなう青

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-01-14

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