お別れだけがいつも新鮮だ

雪水 雪技

お別れだけがいつも新鮮だ

お別れだけがいつも新鮮だ

新譜を探りながら
目は文字列を追う
私の名前の無い
長い文章のなか
私の名前の無い
私の存在の無い
作用のない文字列
誰にも気が付かれない

冷めた珈琲を美味しく飲む
砂糖を求めて歩く気力も無く
怠惰と眠気のなか
軽快なリズムが
心音をたすける
生きていることを
いちいち確認しない
当たり前になってしまって
なんだか見落としてる気がして
よぎった不安は窓の外に逃げ出す
不安も嫌がるこの部屋の空気を吸う

ハッカ、ミント、タブレット
爽やかなものなら何でも集めて
口の中だけの爽快感に
日常を麻痺させる癖
悪いことじゃない

歩き疲れた日には
一人で歩けるのに
ずっと進むことが
時々厭になっていく

雨と雪がいつものように
道を濡らして現実に縫い付ける

浮いていたい気分、
逃げてみたい気分、
右回りも左回りも、
大体のことを試して、
「まだ何処かへ逃げたい。」

私のいない文字列に安堵する
私のことを誰も知らないのなら
私もあなたのことを知らない
それが何より平和なことで
人類が生き延びる方法な気がしている

残った珈琲は冷たくなる
それを美味しく飲んでいる
私はいないけれど消えていない
誰かの日記の中でかすれていく
悪口も溶けてしまって
恨言も忘れてお昼を食べて
夜には再び恨むのでしょう
沢山罵倒して眠るのでしょう

あなたの安眠を祈る言葉は
この世界に無かったから
私は安心して眠れる

私は消えてはいないけれど
誰かの中から消えていく
顔、声、名前、性格、口癖、
なにひとつ確かなものは無い
だから安心して生きていられる

歩き疲れて、ここからどうしようかと
少しだけ考えてみながら
思考の留め具を外して
止まることは心地よい

私を消した私の消しゴム
答案用紙は燃やされている
日記帳は燃やされている
人々から忘れられていく
人々のことを忘れていく

意味の無い文字列を
ずっと組み立ててきて
崩してみて
壊してみて
時間を潰してみている

素晴らしき忘却
素晴らしき精算

おやすみなさい
また明日

お別れだけがいつも新鮮だ

お別れだけがいつも新鮮だ

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • サスペンス
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-01-13

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