透明なくちづけ
あおい はる
ろうや、みたいなもん。すいそうも。
かなしかったのは、すべてをあきらめたような声で、けれど、泳ぐのをやめられないこと。そういうふうにうまれたものであり、性質であること。オルカ。ぼくだけにしか届かない。想い。ガラス越しの逢瀬という言い方は、わりとありきたりで、チープだが、それが現実であり、ぼくとかれがふれあうには実際、この、おそらく、ばかみたいに頑丈なガラスが、じゃまだった。ねおんがいうのだ。水生生物と陸生生物の恋愛なんて、むなしいだけだと。どんな恋愛にも障害や隔たりはあるけれど、これはもうこの世界を創ったひとにしか覆せないのだから、好きになるだけ無駄だと、いつにもまして辛辣なのだ。くやしい。ねおんのいうことはもっともで、なにもまちがってはいなかった。でも、ぼくとかれはむしろ、水族館、という場所で、みじかい時間でも対面できるのだから、まだ幸せな方なのではないか。かれが野生だったら、そもそもぼくたちは、出逢えなかったのかもしれないのだから。
好きだよと、祈るようにつたえる。
ひたいをくっつけて。
ガラスは、いつもつめたい。
好きという意味を、かれが、わかっているのかどうかは、わからない。けれど、ぼくがひたいをおしあてると、かれも、すりよってくる。キス、しているみたいにみえるかなと想うと、ドキドキするよ。
そんなに好きなら飼育員になればいいと、ねおんがいう。
そうだよな、と思う。
でも、むりなような気もする。
だって、かれ以外の水生生物には、興味がないのだから。
透明なくちづけ