幸と不幸の落下速度

雪水 雪技

幸と不幸の落下速度

幸と不幸の落下速度

空から落ちていく
二人で幸せになる予定も
空中都市のビルも
探検家の気球も
あっけなく
空から落ちていく
まえぶれもなく
水槽の魚が逆さまに
授業中の教室の中は
宙に浮いて、
みんな、
落ちていくことに
気が付く間も無く
水浸しになるより先に
海へ街ごと着水した
怪我人はいないとニュースが飛ぶ

それよりも私の幸せが行方不明
天に昇る直前、攻撃的な飛行船に、
翻弄されて、それを見失って以来、
ここが何処か
今が何時か
わからない

人々は歓声を上げて
海へとごった返している
私はこれまでのぼった
一段一段を思い返しては
諦めきれない気持ちに浸り
群衆に背を向けて
海へと還った

誰かが傾く塔の上から、
幸福と不幸を落として、
下を見つめながら、
サンドウィッチを食べている。
下にいる小山羊が何かを記録して
落とした本人に鳴き声を上げた
今度下に落とされのは、サンドウィッチ
小山羊は上手にキャッチして、
紙袋ごと食べ始めている。

私たちの幸福物語は撤去されて
あの人の行方もわからなくて
途中までは確かにハッピーエンド
そしてそこで打ったピリオド。
そうだった、間違いなく、と、
私は落ちてきた日から反芻して
意地汚く、もう形のない夢を描いた

何故か倒れないあの塔を見つめて
私は日々、納得できなくなる
あの人を探したくても
陸にいるのか
海にいるのか
空にいるのか
何も手がかりがなくて
もしかしたら、
未だに落下を続けているかもしれない
そうして日に日に私のことを忘れていって
他の誰かとあの幸福物語の続きを綴る気がして
そうして私は日に日に気が気で無くなっていく

赤い目をして倍速のドラマを観て
ブラウン管には書きかけの
私の物語を再生しつづけて

ある日の真昼に、
私は遂に泣き喚く
それから金切声を上げて
綺麗な貝を岩に叩きつけた
そうしたら雷は海へと落ちた
そうして海は裂けていく

私は剥き出しの海底に落ちていく
この先にあるとも知らない冥界に
もしもあの人がいるのなら
私の幸せは地獄に落ちている
そう思えば奈落の底に落ちながらも
私は恍惚とした笑みを久々に浮かべて
先に落ちていった私の涙が真珠に変わって
暗闇を照らして、深海魚を驚かせながら
目も見えなくなるほど眩い幸福の光

「追いかけて、追いかけて、私の体は、不安定な速度で、落下していく、」

傾く塔から、今日も幸福と不幸を落とす
昼食は乾燥したパンで作ったサンドウィッチ
小山羊に記録を取らせながら
今日も幸福と不幸を落としている

海が割れたと町中が大騒ぎの中
この世の終わりと嘆く人の声
幸福と不幸が浮上をはじめて
ようやく上を見た日には、
頭上に太陽が居座って、
変わりなく法則は働いていた。

幸と不幸の落下速度

幸と不幸の落下速度

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-01-09

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