本音なんて言わなくていい

雪水 雪技

本音なんて言わなくていい

炯眼に焦がされて

色彩の冒険を読んで
本当の色を知らない
本物の絵を目の前に
私の目は敗北していた
世界を崩して創り直す
人の手による世界の創造
こうして惹きつけられる
人の手に人は心動かされ
魅せられたまま口惜しくなる
その才能に時を超えて恋をするように
敗北と焦がれる思いが爆ぜた日に

積雪の音は聞いてはならぬ

振り返ることもなく
手の鳴る音も聞かず
後ろにいる何かも無視して
寡黙にただ吹雪の中を歩く
しんしんと鳴るのに静かな
矛盾を曇らせる息は苦しい
溶け出す頃には気をつけて
ゆるむ雪は一番危ないって
軒下で遊ばなかった私なら
わかっていたことだった

明日は雨と汽車は鳴く

レールは途切れて
人のいない列車
回送をはじめる
無人の駅に一匹取り残された
カタツムリの歌声が汽笛に乗る

途切れ途切れの懐かしい歌が
夜の窓から入り込んでくる
行き止まりの自分のことを
いつの夜にも解放できない
今はその歌声に身を委ねて
涙を流して眠る真夜中に

冥界百景

夜桜の咲いた真冬の公園
幽霊たちが宴をはじめる
酒を注いで花びら浮かべ
浮世の思い出話に
花を咲かせて魅せる
吹雪の中でお供物を食べる
お燗がいいねと笑っている
通行人は凍え死にそうになりながら
おでん屋の暖簾をくぐって避難する
狂い咲き、満月の下、冥界の宴もたけなわ

お酒が飲める歳を過ぎ

マティーニに浸るオリーブは
好奇の目で私を見ていた

クリームソーダのチェリーは
終わる夏を私に告げていた

ぼやけた色のワンピース
夜景に浮いたまま
入道雲の幻を見た

バーカウンターの下から
何も書いていない絵日記

ジュースとカクテルは
私の肉体と心臓を浸す
私の血液と季節は巡る

本日晴天、低刺激に死す

炭酸の抜けた甘い飲み物
誰のことも待たないまま
気の抜けた味をストローに通す
夕焼けも朝焼けもブルーになる
退屈に殺された人たちの渋滞に
信号機は忙殺されて
何処も殺伐として
青空は馬鹿にして
雨雲を気まぐれに呼んで
群衆にスコール
戯れて笑っている
憎らしいほどに青くて

何も知らぬ人たちの為の秤

曇天の隙間から梯子がかけられて
何も知らない人々は前の人にならい
梯子をのぼってゆく
梯子をのぼってゆく
雲は体にまとわりつく
水滴はこおりはじめる
この向こうに何がある?
この向こうに何がある?
人々は疑問符を浮かべて
梯子をのぼってゆく
梯子をのぼってゆく

夢の跡に伽藍堂

ティーカップの底の故郷
今日も午睡と鐘の音
琥珀色の夢を見て
季節外れのひぐらしの声
寂しさが湧き出てくる
美しい杯はいつも
満たされない

太陽が傾くたびに泣いている
後ろの家に今年生まれた声
私の胸を通り過ぎていく
いつかの団欒の声
無表情が映りこむ
水鏡が揺れている

火星庭園

火星に咲いたチューリップ
燃え上がるように爛々と
星の光の下で育っていく
赤い赤い、地上の何よりも
赤い赤い、花びらがひかる
蠍座と射手座が球根を狙い輝く
火球は見惚れて軌道から外れた
みんな惚けてしまうほどに赤い
置き去りのカセットテープから
懐かしい童謡が流れている

鳥になど生まれるものか

サーチライトは弱まっていく
あの光を目掛けて飛んでいけ
後ろから年長の鳥が指示を出す
列を乱すこともなく
羽を休める暇もなく
無風の今日は自棄になる
熱病の羽ばたきを見るがいい
凪いだ海の上で渇いていく
鳥になりたかった人々が
恨めしく見ている空の上
天国なんてあるものか

新年を占う人

秘密をボウルの中にうるかして
水面に浮かび上がる模様で
今年を占う魔法使い
村人が集まる
林檎をむいて
果汁滴るナイフ
蝋燭の光を反射
重々しく口は開かれ
今年の出来事を語り出す
記すことは禁忌であった
皆は不明瞭な言葉に
黙って耳をすませて
魔法使いの言葉に従った

無言の否定、予定、手帳の上

何も無い日に
予定を書いた
赤いペンで
架空の予定

外も見ずに
天気を書く
青いペンで
嘘の季節

手帳は沈黙して
私は日々を塗る
いつかを待って
今日を埋めて

薄情な傘に告ぐ

レモンが溺れる紅茶の泉
セピアに染まる記憶たち
沈澱する過去の傷跡
飲み干して店を出て
曇り空に風は強く
もう負けそうな
心を抱えて
粉雪が散る
風に煽られ
傘は折れて
手ぶらになる
心許ない散歩道

安らかなる狂気に

広告に載っていた
新しい鏡を迎える
魔法の道具を増やして
占う今日は部屋に一人
誰かにかけたまじない
屋根に帰ってくる星屑
雨漏りを受ける皿たち
雨粒の音が心音と重なる
指先は赤く染まっている
たくさんのまじないの跡
煮詰めた薬草たち
誰かの記憶の匂い
この部屋を満たす

ひとつもふたつも同じ日に

千里の道を行く
影は先を行く
途切れた手紙
不安は密度
それなのに
形は無い

だけど、囚われ続ける

有限だから無限になれる?
私はひとり、メビウスの輪
私はこの部屋の、ウロボロス

宇宙のことを考えながら
天井の木目を眺めている
目眩の今朝へ、
夢から覚めても続くもの

雪の優しさと罠

神様の心を覗きたくて
色々な禁忌に手を染めて
たくさんのバチがあたる
泣きながら兎は雪原に消える
それを見た私の涙は雪を溶かす
私の罪を隠したホワイトアウト

神様の心を知りたくて
問いかけてみても
応答のない日曜日
人々は祈っている
多分、誰かの為に
私は祈る
私の為に

救いを求めて染まる日に

天国で回りつづける
年代物のレコード
いつもと同じ音楽に
天使たちも居眠りをする

人々の娯楽は
今朝も灰色の空に
つまらなく漂っている

退屈を壊してはくれない
暴力的なサウンドにも
耳は慣れてしまった

天上の歌声は幻聴?
救いを求めるのは
刺激を求める心だ
今も昔も

思い出せない顔が並ぶ

グランドの上
製図される
私達の列
逃げ出した影たち
放課後まで戻らない
言葉の数だけ人が出来上がる
卒業旅行のパンフレットも見ずに
行き先不明の旅に泳ぐ目、心許ない

どこかに行った証拠を
誰かに見せる為に
どこかに行っただけ
お土産は無いけど
気が利かない訳じゃ無い

懐古と逃避と夢想

砂漠の上にたくさん生まれた影たち
歴史の時間に出てくることは無い
誰かの一生、ある日の暮らし
コップに注いだ水の中に
私だけの史実を混ぜて
飲み干した真夜中
砂漠の上に三日月
私は見知らぬ人を
私は失われた歌を
今世で待ちながら
明日から逃げ出す

本音なんて言わなくていい

予定より早く出来上がる
だから冷めてしまった
遅いぐらいが丁度いい
そんなこと誰も教えない
みんな急かしてばっかり
ゆっくりしてる人を妬む
そしてまたせかせか歩く

体が動かなくなった日に
大嫌いって言えたらいい

好きなもの以外どうでもいい
君も私も悪くない

本音なんて言わなくていい

本音なんて言わなくていい

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • ミステリー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-01-08

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Copyrighted
  1. 炯眼に焦がされて
  2. 積雪の音は聞いてはならぬ
  3. 明日は雨と汽車は鳴く
  4. 冥界百景
  5. お酒が飲める歳を過ぎ
  6. 本日晴天、低刺激に死す
  7. 何も知らぬ人たちの為の秤
  8. 夢の跡に伽藍堂
  9. 火星庭園
  10. 鳥になど生まれるものか
  11. 新年を占う人
  12. 無言の否定、予定、手帳の上
  13. 薄情な傘に告ぐ
  14. 安らかなる狂気に
  15. ひとつもふたつも同じ日に
  16. 雪の優しさと罠
  17. 救いを求めて染まる日に
  18. 思い出せない顔が並ぶ
  19. 懐古と逃避と夢想
  20. 本音なんて言わなくていい