伊達巻がいちばん好き

 ゆらゆらと、蜃気楼。
 あの、海のむこうの街では、人格をうばわれたひとびとが、人形として暮らしている。
 かなしいので。
 あまり、あの街のことはかんがえないようにしている。血も、肉も、骨も。臓器、神経、回路、脳、など。わたしたちとおなじ内部構造でありながら、うしなわれたのは、心。心がないだけで、いきているひとは、しんだもののようになる。一月も二日となり、すでに鬱陶しく感じている、テレビの特番。おせち料理にあきて、カレーライスとか、焼き肉とか、そういうのが恋しくなってくる。そういえば、おせち料理って、甘い味つけのものが多い気がする。栗きんとん、黒豆など。先生に、そのことをメールしてみたら、ぼくはおせち料理を食べたことがありませんという返事がきて、そうなんだぁと思った。でも、そうだろうなぁとも思った。先生はライオンなので、きっと、平時も、お祝いのときも、肉料理ばかりなのだろう。むしろ、料理すらしていないかもしれない。肉は、肉のままで。でも、わたしはしっている。先生は購買のメロンパンが好きだ。
 初売りセールということばに浮かれて買ったワンピースは、いままで選んだことのない、花柄である。
 一度着たらおそらく、後悔する気がしている。安かったからいいか、と潔く思うようにしようと、いまから心構えをしているあたりが、なんだかなぁという感じで、わたしは先生のアイコンを画面越しに撫でる。
 ずっと。
 わたし以外のメスが写らないように。
 一生。
 新年も、呪うように祈ってる。

伊達巻がいちばん好き

伊達巻がいちばん好き

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-01-02

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted