大晦日に、たい焼き

 メメ。ねえ、雪が降ってきた。

 きょうのために生きているし、あしたのために呼吸をしている。氷点下の、血が凍るほどの寒さを感じて、感じているということは、わたしはしんでいないのだと、しみじみ思う瞬間の、吐く息のあたたかさ。天気予報できいた、雪が降る確率、二十パーセントに割り振られた十四時。メメがながめている十二月のおわりの、商店街の喧噪。公園にて、とくにやることもないしと座っていたブランコが時々、悲鳴をあげる。たい焼きを買いに行ったモリを待つあいだに、わたしとメメの会話はまるで初対面同士の、あたりさわりのない、中身のない内容で、なんかお見合いしてるみたいだと思った。ぜんぜんはじめましてじゃないし。むしろ、モリよりもメメとの方が、趣味嗜好も合致しているのに。冬休みにはいってからまだ、一週間も経っていなくて、クリスマスの夜にメメは、恋人と別れて、しんぱいしたけれど、逢ってみればいつものメメで。
 でも、ふとしたとき、どこか遠くの、みえないものをみるような胡乱な目をする。

 にぎやかだね。 そうだね。

 大掃除やった? なんとなく。

 雪降ってきたね。ほんとだ。

 モリ、おそいね。そうだね。

 …さびしいの? …わかんない。

 たいせつなひとと離れてしまった系の、さびしさのまぎらわし方を、きっと、モリはわかっている。メメとわたしに、カスタードクリームのたい焼きを買ってくるはずだ。そして、カスタードは邪道だとモリは言いながら、つぶあんのたい焼きをあたまからかじり、メメとわたしは微笑んで、黄色いクリームがたっぷりつまったたい焼きを、せなかからたべる。

 おしり、つめたくなってきたね。

 メメがわたしをみて、泣きそうな顔で笑った。

大晦日に、たい焼き

大晦日に、たい焼き

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-12-31

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