おかあさんへ

「しね」
 なぜそう言われたのかは、はっきりと覚えていません。
 しね、と言われる前に、おこられたことだけは覚えています。ですが、かんじんの、なににたいしておこられたのかは、思い出せません。
 ただ一つ分かるのは、わたしはそれほどまでに「わるい子」だということです。
 それまで、自分を「わるい子」と思ったことはありませんでした。
きっと、おかあさんはそれをわたしに感じさせないようにせっしていたのだと思います。だけど、それもげんかいがきたのでしょう。
 そうでなければ、オニみたいな顔で「しね」と言うはずがありません。
 だから、わたしは、しぬ方法を考えました。
 台所のほうちょうで、自分のおなかをさそうと思いました。高いところからとびおりようと思いました。赤しんごうのこうさてんからとび出そうと思いました。
 しぬ方法はいくつか考えましたが、どれもじっこうにうつすことはありませんでした。
 やらなくてはいけないことは、りかいしていたつもりです。
 なぜなら、おかあさんのことばだから。
 わたしのことを大切に思っているおかあさんのことばだから。
 ですが、いざしのうと思うと、こわくてできませんでした。
 それは、一回や二回のことではありません。なん回も、わたしはしのうと思いました。でも、いつもあと一歩がふみ出せないのです。
 しんだら、友だちに会えません。楽しみにしているアニメが見れません。おいしいものを食べられません。
学校に行けません。だれかとお話できません。いつも通る道を歩けません。
 わたしはこの世界とわかれることがいやでした。たった七年しか生きていないのに。
 しにたい。しななくちゃいけない。早くしなないと。
 だけど、しにたくない。生きたい。

 おかあさん。わたしは本当にわるい子です。
 わたしは、生きることをえらびます。

おかあさんへ

おかあさんへ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-12-31

CC BY-NC-ND
原著作者の表示・非営利・改変禁止の条件で、作品の利用を許可します。

CC BY-NC-ND