星の砂
(星は、うけとめてくれるよ。うまれるものも、しんでゆくものも、わらっているものも、かなしんでいるものも、ちいさいものも、おおきなものも、すべて。器として。受け皿として。宇宙に落下しないように。ね)
朝の嘔吐感に、海の色をわすれる。
二十七時まで感じていた、だれかのぬくもりが微かに、皮膚組織に残っている。海面からシャチが、顔を出す。おはようと、ぼくは言う。シャチも鳴いて、きっと、おはよう、と返してくれているのだと信じている。三千年前の冬を、断片的に思い出して、きみが、途方に暮れる。自動販売機で買ったホットコーヒーは、おそらくもう、ホットではなくなっている。機械のからだになった、あのひとが、腐るのはいつのだろうと想像すると、なにもかもが、どうでもよくなってきて、みんな、しねばいいのになんて、乱暴なきもちになる。摂理を無視して。他者のやさしさを蔑ろにして。しらないひとの不幸を祈るような真似をして。
ぼくの血液は、この、プルタブをあけたコーヒーよりも、つめたいかもしれなくて、七日前、百貨店の屋上でみた、あの、ひどく雑然とした檻にいれられた、小動物のふるえる瞳を、かわいそうと思っていたのに、いまは、かわいそうだけれど仕方ないと、ペットを捨てるひとみたいな感情が確実に芽生えていて、あしもとからくずおれたい。
星の砂