ミラーボールのような光が行き交う中で

 メイコと最後にデートしたとき、プラスチック製の洒落たトランプをもらったのだが、それが今朝、押し入れから見つかって、私はすぐに――まるでデパートで迷子になった子どものように――メイコのところへと向かったのだった。
 メイコの居場所は前々から知っていた。けど、三十年も気持ちをごまかしていた。
 最後のデートの日、私たちは手品を観にいった。最後にふさわしくないが、どうしてだろう、私もメイコも手品を観たかったのだ。何でも世界的に有名なマジシャンの来日だかで、密かに噂になっていたショーだった。
 私たちは真ん中の席に座り、そのマジシャンの手さばきにうっとりとまなざしをそそいだ。うっとりついでに、メイコは、私の耳に息を吹きかけたり、乳房を揉んだり、股間に手をやったりと、ミラーボールのような光が行き交う中で、試行錯誤した。私は少しずつ体を濡らしていった。
 催しが終われば、私は夫の待つ家に帰らなければならなかった。メイコはメイコで、世界一周の旅に出ると豪語していた。世界中の女に会ってくるのだと。

 真夏の日差しと蝉の大合唱の中、坂道を上りきると、そこには老人施設がたたずんでいた。受付で面会手続き――それは予想だにしない煩雑さだった――を済ませ、二階の角部屋の、存外重厚な扉を開けると、メイコは、ベッドの上で上体を起こしたまま、窓の外を眺めていた。その目がゆっくりとこちらに移動する。
 メイコはおもむろに微笑んだ。どなた? と口が動いた。私は、やっぱりこの子が好きだ、と思う。泣きたいくらいに、思う。言いたいことがたくさんあった。
 私たちはしばらくの間、窓の外、山海で構成された豊かな景色を眺めた。メイコの手が――三十年の歳月をさかのぼって――私の股間へと伸びていた。
 皺だらけの手。かさかさの肌。私も、同じ。
 あの日の気持ち――ミラーボールのような光が行き交う中で味わった気持ち――を思い出しながら、私は、今もされるがままだった。

ミラーボールのような光が行き交う中で

ミラーボールのような光が行き交う中で

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更新日
登録日
2012-12-10

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