空降る魔法のすず
こんころりん。
おやおや。頭に小さな痛みを感じたかと思ったら。
雪積もるまっさらな地面の上に、小さく沈んだ穴が。
中に落ちたものをゆびで摘んでみる。ひんやりつるりとした肌触り。
拾い上げると、軽やかにりんりんと音が出る。
雪の白さを綺麗に反射する、どんぐりのような鈴だ。
一体どこから落ちてきたのだろう。どこかのお店の飾りかな。
あたりをキョロキョロを見ていたら、ひとりのおじいさんと目があった。
青い瞳に立派な白いお髭をたくわえて。雪景色の中によくよく馴染んでいる。外国の方かな?
おじいさんは僕に近づいてきた。お辞儀で挨拶を交わすと、おじいさんは手に持ったこれを指して言った。
「おやおや、これは珍しいものを拾ったね」
流暢な日本語で思わず驚く。長く日本にいらっしゃるのだろうか。
「では、これは貴重品なのでしょうか?それならば、元の持ち主に返さないといけませんね」
すると、おじいさんはお髭を横に振った。
「これはもうすでに君のものだ。空から落ちてきたをところを、君が見つけたのだから」
「そ、空から、ですか?」
おじいさんが言うには、魔法の鈴なのだそうだ。白聖夜にしか落ちてこないのだと言う。
僕からすれば、何の変哲もない、ただの鈴なんだけど。一体どこが魔法に見えるのだろうか。
「君には音が聞こえるのだろう?どんな音なんだい?」
「どんなって。いたって普通の鈴の音ですよ。
揺らせば音が可愛らしく転がる感じで。
雪のようにしんとした美しい余韻がします」
おじいさんはうなずいて続けた。
「余韻まで聴こえるなら、君は特別な子のようだね。
この鈴の音は、限られた人にしか聞こえないのだよ」
御伽噺の世界じゃあるまいし。でも、不思議だ。おちょくられているような不快感がない。
「それは玄関に飾るといいよ。鈴の音を聞きつけて、祝福が君の門にきてくれるから」
「よくわかりません。でもリースの一部が欠けていたので、ちょうどいいです」
おじいさんはふっくりと笑って頷いた。
「それじゃあ、メリークリスマス。良い夜を」
そして、そのまま雪景色の中へと溶け込んでいった。
帰ってから、僕は忘れないうちに拾った鈴をリースにつけた。
静かな月明かりを吸い込むようにきらりと光り、ころりんりんと優しい音を出す。うん、ぴったりだ。
家に入ってドアを閉める時、聖夜の最後に鈴の音色が聞こえた。
気のせいだとは思うんだけど。なんだか家がとても温かく感じるよ。
嘘か本当かは結局わからないけど、おじいさん。
ちょっと夢のあるクリスマスをありがとうございました。
平凡な大人になった僕にとっては、とても嬉しいプレゼントでした。
空降る魔法のすず