ハッピーエンド
雇オク前提の雇鬼
寂れたモーテルの壁に掛かる赤い鬼の面をベッドに腰掛ながら睨む。
…オクタビオ…お前になら…俺は…
体と額から溢れる赤い液体が止まらない。
腕の中で満足そうな顔で見つめる瞳から溢れてた涙も蒸発していつの間にか渇き光を失い体が触れてる箇所以外は冷たくなっていく。
もう声も出ないのに何度も名前を呼んだ。
彼の故郷の子守歌も歌ったっけ…
目を閉じると浮かぶ光景に深呼吸して鬼の面を手に取った。
――――何で今思い出しちまうんだ…
向かうはゲームが開催されるステージ。
周りは皆パートナーと組み参加している。
自分は仲間を作らずに参加して狙うはただ一組。
見つめる一点にははしゃぐオクタンとやれやれと笑う黒いコートを着込んだクリプト。
眺めてると心底怒りがこみ上げてくる光景だ。
全てを破壊してやりたい衝動に駆られる。
――――ハッピーエンドには俺が必要だろ?なぁテジュン。
ようこそ地獄の宴へ。
白煙と粉塵の中黄緑に光る二つの目、時折煙の中を見え隠れする赤い鬼。
最近自分たちが参加するゲームによく出現し邪魔をしてくるあの忌々しい赤鬼のせいで口論になることもしばしば。
そして今も自分は爆風と共に頭を打ってしまいパートナーのオクタビオが赤い鬼と必死に応戦していて
あの鬼はオクタビオと同じように興奮剤やジャンプパッドを駆使して戦っている。
この笑い声はオクタビオが笑ってるのだろうか?
それにしても動きを読まれ過ぎてる、まるでこの戦いを何度も繰り返して熟知してるような動き。
ついてないなと呟き黒いコートの塊は地面に崩れた。
――――どういうことなんだよ!お前一体…
「JAJA驚いたか?」
――――やめろ!!
「黙って見てろ、お前の愛しいクリプト君の姿をな?」
同じ声なのに会話をしているのが聞こえクリプトはゆっくりと意識を浮上させている。
薄く目を開いても視界が暗く自分が目隠しをされてるのが分かるまで時間がかかった。
「いつまで寝てんだ起きろ」
ドスっと胸に響く衝撃と共に体内に冷たい何かが注入され意識が突然はっきりとし
体ごと浮き上がらせれば手首にはめられた手錠がガチャっと音を立て引っ張られた。
「かはっ…な、にを…」
「っ…テジュン!!」
ドクドクと聞こえる脈を打つ音と共に少し遠くからオクタビオの声がして力いっぱい手錠を引いている。
体が強張り奥歯を噛みしめてるとJAJAと愉快そうな笑い声が今度は近くから聞こえ神経が過敏になってる耳元に吐息が掛かった。
「アドレナリンの味はどうだ?ん?」
「…?オク、タびお…?」
状況が分からずも聞きなれた声を聞いて安心したのか顎の力が抜けゴクリと生唾を飲み下ろす。
「違う!そいつは俺じゃねぇ!テジュンから離れろ!この…オイ!!」
「っなに…?」
ギシギシと音を立て叫ぶオクタビオの声を聞き声の方向に頭を向け薬で働かない思考をフル回転させる。
素肌をゆっくり撫でおろす手の平の感覚で自分が上半身に何も身にまとってない事と敏感になっているせいか筋肉がビクンと強張った。
「今から何をすると思う?」
「やめ…ッ」
そう言うと太ももにのしかかられベルトを外す音に事を察したクリプトは体を揺らして抵抗した。
「お前…ッ…!」
「おいよく見てろよ?」
制止しようとするオクタビオの声をかき消すように上塗りする同じ声がしたかと思えばボトムと下着を一緒に下されてしまう。
楽し気な笑い声と共に自身を多少乱暴に扱いただけで感度が上がってる体には刺激が強く喉を反らして唸り声と熱い息がもれる。
「オイオイ見ろよもう勃ち上がったぞ?溜まってたのか?」
「この野郎…っ…」
喉を震わせ焼ききれそうな理性を保とうと額に血管を浮き出たせ頭を上げた。
戦場のようにエネルギーを発散する訳でもないアドレナリンはゆっくりと体を巡り意図してないのにも関わらず反応する体に戸惑う。
「そうやって耐えてんのどこまで持つかな?楽になりてぇだろ?」
「よせ…っ!は……っ…く…」
自身の先に吐息が掛かるように話されればトプっと先走りが溢れる。
するとゆっくりと柔らかくて暖かくぬるついた物に吸い込まれ背をそらし胸を震わせた。
先を柔らかい物にくすぐられヂュッと音を立てて吸われソコが咥内だとわかるまでに時間はかからなかった。
舌の先が尿道口をぐりぐりと刺激しそのまま裏筋をなぞり舌の腹で包み込まれガチュ…ガチュ…と水音が小さく聞こえカリ部分が上顎の凹凸に引っかかる。
喉を逸らし喉仏を震わせて、その快感に口が半開きになり本能のままゆっくりと腰が上下し、打ち付けてしまいたい衝動に駆られた。
「ぁ…ハ…は…っ…く、…」
胸と腰を撫でる手のひらのリズムに合わせて揺れる腰、奥まで咥えられ柔らかい喉の粘膜が飲み下す動きをして轟き吸われ、もう一度その快感を味わいたくて腰を引いて喉の奥を目指し腰を突き出した。
――――もう少し…!
「…テジュ…」
「……!!は…!!」
か細く不安そうに震えた声でオクタビオに呼ばれ我にかえり荒い息を正常に戻そうと上下させて声の主のほうを向く。
「…オク「おいおいうるせーな!?今いいとこなんだよ、泣くな情けねー…くくっ」
――――オグダビオが…泣いてる…?
ロープの軋む音と鼻を啜る音、不安そうに呼ぶ声、オクタビオが泣いてるのが分かった。
その音に神経が集中する。
「お前はこっちに集中しな?」
「オクタビオ…」
同じ声の主の腰に跨る動きが一瞬止まるりクリプトを見下ろすもその呼び名は自分に向けて言われた事じゃないと分かり、何度も繰り返して来たのに期待してしまう鬼は舌打ちをしてゆっくり腰を下した。
「ッは…!!お前ッ…」
「ッ~…はッ…いいぜアンタのチンポ…アンタはアイツじゃなくったっていいんだ、…はぁ…ぁ…認めろよ」
煽るように耳元で囁かれる。
苦しそうに歯を食いしばる顔青筋が浮かび汗が吹き出る額、それは縛り上げた泣きわめくオクタビオに向いていて跨ってる鬼には見向きもしていない。
自分に向かせようと腰を揺らす鬼もまた…
「オク、タビオ…オク…!目を、瞑ってろ…!は…俺は、大丈夫だから…俺はお前を…」
腹に熱い液体がポタポタと落ちて跨る鬼が達したと分かる。
クリプト自身は必死に耐えようとしながらオクタビオに声を掛けるとガツッ!と音が鳴り、オクタビオの声が止んだ。
「ッ何を…した!!」
ガチャガチャの手錠の鎖が張ってクリプトは暴れて腹に手を添えて言う。
「安心しろ少し黙らせてやった…ほら楽し…」
「…怪物」
「なに?」
「お前は怪物だ…」
どの時間軸でもかつて愛した人に恨まれて言われた言葉。
そう言ってこいつは理性を手放してめちゃくちゃに犯すんだ。
そう言って…改めて過去の俺を愛すんだ…
俺は…
俺のことは…なぁテジュン…
――――バキッ…!!
「な…!?」
長年使っていた手錠の鎖が限界を迎えたらしく引きちぎれたと同時にクリプトに肩を捕まれ床に押し付けられる。
驚き目を見開き相手を見ると驚きと怒りを宿した瞳が見下ろし、振りかざした拳が動揺で震えてるのが見えた。
「どうなってる…オクタビオ…?」
肩を潰すくらい押し付けていた手の平から力が抜けていく。
俺はというと…
「何故…泣いてる…?」
「っ…」
達したと思っていた物は涙が落ちたというのと
彼自身は勃起すらしておらず、秘部からは少し鮮血が見え慣らさずに無理やり挿入したと分かり更に混乱した。
動揺したのは髪の毛が白くなったオクタビオは頬を濡らし肩を震わせて嗚咽を零す。
傍にある赤い鬼の面には見覚えがあった。
幾度と戦ったからでは無く、近くでまじまじと見ると恋人にプレゼントしようと特注で作らせていたものと瓜二つなのだ。
そしてその容姿。
泣いてる彼はオクタビオと同じ。
「…オクタビオ?」
名前を呼び塗れた頬に触れて怯えるように震える肩と開いた瞳孔。
どうやら推理は合ってるようだ。
「未来から来たのか?」
「なん、で…」
その返答に確信して涙を親指の腹で払ってやる。
戸惑い動揺しながらもジッと見つめる瞳から目を離せないでいて手の平にそっと体重が乗ったのが分かった。
「…失敗しちまった」
そう言って小さく笑う姿は痛々しく、
どういうことだ?と問われ観念したのか諦めたのかポツポツと今までやってきたことを伝える。
自分自身が死んだ事、その運命を阻止しようと未来から来たこと。
唯一救えた方法が自分を鬼として退治させることで絆を深め幾度もそれを見てきたこと。
そして今失敗し、未来は分からないという事。
疲れたように笑って言う、
――――俺がお前を…
「それは違うだろう」
即答したクリプトの瞳はまっすぐ見つめていて引き寄せ抱きしめられてる事に気付いたのは少し経った後だった。
散々苦しめた自分に対してすまない、すまない…と何度も言って背中をさするこの男はきっとどこまでも優しく、変わらない。
二度と向けられる事のない視線とオクタビオと絞った震える声で名前を呼ばれ胸の中で抱きしめられる愛に声を上げて泣いた。
「お前がこんなになるまで…俺を救おうとしたのか…本当にバカ野郎だなお前は」
頬を両手で挟まれ向き合った顔は笑いながらも同じくらい泣いていて一緒に笑ってしまう。
「ただ…逆なら…俺も同じことをする…お前を失うなんて…考えたくもない」
気絶してる過去の自分を見つめながらそう言った。
愛しそうに見つめる視線の先は自分にでは無いことを分かっている。
「オクタビオ…俺はずっとお前を愛してる」
聞きたかった言葉がストンと空っぽになった心を満たしたのが分かった。
言葉を聞いた後、自らクリプトの肩を押し離れるように促し腕の中から解放された。
心配そうに見つめる黒い瞳、それはもう二度と自分の物にならないことは分かってるもこのまま優しさに甘えていたいのも事実で見ていられなかった。
服を整え正気を保とうと目を反らすとまた頬を挟まれ額が合わさると心の中を覗かれてる気分だ。
「オクタビオ…聞け、あくまで一つの仮説だが…きっと逆の世界線もあって…お前を失くした俺がどこかに居る」
「…?」
「…探すんだ。きっとお前が必要だ。もう自分を傷つけないでくれ…」
クリプトの閉じた瞼が震えていた。
自分の身を案じてるのだと分かる。
――――そんな世界線なんか…あるわけない…
それに俺が止めちまったらお前の運命は…
「…わかった」
離れた額、きっと俺が納得していないことも分かってるだろう。
俺は鬼の面を被った。
「テジュン…」
「行くのか?」
「あぁ…あのさ…」
面を被ったのは正解だ。
「…生きて欲しい…一人は…」
――――寂しい
そういうのと同時にディメイションリフトのようなゲートに包まれて虚空に消えた。
「ん…ン…?」
目が覚めると身動きが取れなくて体を捩るもガッチリとテジュンの腕の中に力いっぱい抱き締められていた。
「テジュ…「オクタビオ…」
投げられた銃が頭に当たって気絶してしまって…その後どうなったのか聞くのは怖かった。
「何も心配する事は無い…」
心中を察したであろうテジュンは優しく安心させるように頬を撫で手首に血がにじんでいた。
見つめ合った後にもう一度胸の中に収まった、一瞬見たテジュンの目には涙が浮かんでいた気がする。
「オクタビオ…ずっと傍に居て欲しい…愛してる」
声が震えてるのが分かり自分も言葉の意味を理解するのに数秒かかった。
あの日から何日たったか…
どうやら時間設定も間違えてしまって何故か俺もクリプトも存在していない世界に来ていた。
充電に暫くかかるもののやつれた心を休めるには十分で気晴らしにゲームに参加。
この世界は心地がいい。
戦ってるだけで何も考えなくてもいいから。
でもある日一瞬だけ赤い者が横切った。
そのコートには見覚えがある。
『お前偶には派手なもん着てみろって~!!JAJA』
『…派手すぎるだろ…』
『似合うと思うのによぉ~…』
いや…まさか…
半信半疑のままそのコートを追った。
その姿はまるで…
「悪魔」
ハッピーエンド