わたしのネル
ひばりが歌う夜に、どうしようもない破壊衝動を、パウンドケーキを一本、まるかじりすることでおちつかせる。
ネル。
ネルというなまえの、こども。
外見は、ごまかしようもなく、おとな。
わたしたちがいつもみている、空は、空というなまえであり、海は、海というなまえであり、森も、もちろん、森というなまえであるわけで、では、一体だれが、空と、海と、森と、名づけたのだろうと、なんだか途方もなく、果てしない想像をしていたのは、図書館にいた、ツインテールの女の子だった。つまりは、いま、この世界にそんざいするもののなかでも、とりわけ、過去に遡らなくてはわからないようなこと。昔からある、木、山、星、月、土、など、それらのなまえをつけたひとのことを、その女の子はかんがえていて、わたしはすこし、めまいがした。
きっと、神さまでしょ。
創造主とか。
そういう、実体は謎なのだけれど、そのなまえをもつだけで無条件に敬われる、ひと(ひと?)
ツインテールの女の子が抱えていた、生きものをなぐりころせそうなほど、ぶあつくて、見るからに古い本は、ほこりっぽいにおいがした。夏の土のうえで、静かに腐っていく向日葵のことを、なぜか思い出して、ネルのことが恋しくなった。
わたしのネル。
おとなだけれど、こどもみたいなネル。
にんげんのネル。
まよなかの、玩具としての、ネル。
いまはだれの、うでのなか?
わたしのネル