わたしのネル

 ひばりが歌う夜に、どうしようもない破壊衝動を、パウンドケーキを一本、まるかじりすることでおちつかせる。
 ネル。
 ネルというなまえの、こども。
 外見は、ごまかしようもなく、おとな。

 わたしたちがいつもみている、空は、空というなまえであり、海は、海というなまえであり、森も、もちろん、森というなまえであるわけで、では、一体だれが、空と、海と、森と、名づけたのだろうと、なんだか途方もなく、果てしない想像をしていたのは、図書館にいた、ツインテールの女の子だった。つまりは、いま、この世界にそんざいするもののなかでも、とりわけ、過去に遡らなくてはわからないようなこと。昔からある、木、山、星、月、土、など、それらのなまえをつけたひとのことを、その女の子はかんがえていて、わたしはすこし、めまいがした。
 きっと、神さまでしょ。
 創造主とか。
 そういう、実体は謎なのだけれど、そのなまえをもつだけで無条件に敬われる、ひと(ひと?)
 ツインテールの女の子が抱えていた、生きものをなぐりころせそうなほど、ぶあつくて、見るからに古い本は、ほこりっぽいにおいがした。夏の土のうえで、静かに腐っていく向日葵のことを、なぜか思い出して、ネルのことが恋しくなった。
 わたしのネル。
 おとなだけれど、こどもみたいなネル。
 にんげんのネル。
 まよなかの、玩具としての、ネル。

 いまはだれの、うでのなか?

わたしのネル

わたしのネル

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-12-23

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