ドンペリの泡よ消えないで 参 「飲み干した女」 (2:1)

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舞台がホストクラブとのことで、演者さんは18歳以上推奨とさせていただきます。

ドンペリの泡よ消えないで 参 「飲み干した女」


ユキミ ナオトの客 30代 10年前は、レンというホストの指名客だった

ナオト ホスト 30代 柔らかい物腰で人気ホスト。

コウキ 新人ホスト。接客が下手だが、本人に自覚はない。自分ではイケメンだと思っている。


◇◇◇

ユキミ:(モノローグ)毒だと気が付かないのが男の愚かさなら、毒だとわかっていて飲み干すのが女の愚かさ。

飲み干した毒は、確実に体を蝕んでいるのに、それでも生きていかなくてはいけない。

生きるためには支えが必要。たとえそれがどんなに儚く(はかなく)脆い(もろい)杖であっても。



(ホストクラブ店内)



ユキミ:そうなんだ。それで?

コウキ:そしたらですね、お前がいないと仕事が回らない!ってめっちゃ引き止められたんですけど。俺は、もう辞めるって決めてたんで。

ユキミ:へぇ。

コウキ:課長とかが、引き止めようとして飲みとか誘ってくるんですけど、俺奢らせるだけ奢らせてサヨナラしてやりましたよ。

ユキミ:(笑う)ひどいなぁ。今頃コウキ君がいなくなってみんな困ってるんじゃないの?

コウキ:だと思いますー! でも知ったこっちゃないですね。あんな職場。

ユキミ:戻ってきて?とか言われない?

コウキ:何度かメッセージ来ましたね。無視しましたけど。

ユキミ:へえ、それで、そんなにホストになりたかったの?

コウキ:なりたかったっていうか。なんか、やりたくない仕事やっても意味ないかなって。バカな上司に頭下げたりとか。俺は悪くないことまで俺のせいにされたこともあるし。上司はどうせ気に入ってる奴しか評価しないし。

ユキミ:なるほどね。

コウキ:で、とにかく楽に稼ぎたくて。女の子はいいなー、客と飲んで笑ってるだけで、めっちゃ稼げてーって。

俺、女だったら絶対キャバクラやってましたもん。おっぱいチラってしながら「シャンパン入れてー! ピンクがいいー!」とか言えばいいんでしょ? 簡単そー!

ユキミ:いやーそんなに簡単ではないと思うけど。それで、ホストになったの?

コウキ:そうそう。女の子が男から搾り取ったお金を、俺が回収してやろっかなーって感じで、適当に応募したわけです。

ユキミ:そうだったんだ。

コウキ:バカでしょ? 俺、意外とけっこうバカなんですよ。

ユキミ:ふうん、なるほどね。それで、稼げそう?

コウキ:いやー思ったより厳しいですね。先輩こえーし。指名取れてないし。

ユキミ:そうなんだ、がんばってね。

コウキ:どうですか、俺……あ、えっと、ミユキさんでしたっけ?

ユキミ:ユキミ。

コウキ:あー、すみませんー!

ユキミ:いいよ、よく間違えられるし。

コウキ:すみませんねー俺、適当な性格だし、バカなんで。お客さん全員なんて、覚えられないですよ。で、ユキミさん的に俺ってどう思います?

ユキミ:そうねえ、若いし、顔もかっこいいなって思うよ?

コウキ:あーまー、見た目はよく褒められますねー。若く見られるみたいで、お酒買うとき年齢確認されるし。

ぶっちゃけ、このホストクラブの中でもルックスで負けてると思う人は、いないんですけどねー。でも、女の子ってナンバーついてるホストにばっかり行くんですよねー。あーあ、俺も早く指名もらって枕営業とかしてぇ。あ、かわいい子限定で。

あ、やば、こういうこと言うとまた怒られる。

ユキミ:(笑う)

ナオト:すみません、ユキミさん、遅くなって。

ユキミ:ああ、ナオトくん、うん、大丈夫。ごめんね、急に来て。

コウキ:ナオトさん、おつかれっす。

ナオト:コウキ。お前は、裏でキッチンのサポートしてこい。

コウキ:え、なんでですか? ヘルプで付きますよ?

ナオト:いいから行け。

コウキ:はあい。

ナオト:客にちゃんと挨拶してから離席。

コウキ:ああ、すみませんー。ユキミさん、失礼します。

ナオト:(溜息)

ユキミ:新人さん?

ナオト:はい。最近多いんです。失業して、楽に稼ぎたいから雇ってくれって言ってくる奴。下手でしょ接客? ユキミさんのことだから、どっちが接客しているかわからなくなってたんじゃないですか?

ユキミ:ううん、気にしないで、大丈夫。

ナオト:……ホント、そういうところ変わらないですね。昔から。

ユキミ:そういえば十年、経ったね。

ナオト:はい。

ユキミ:表に出てる写真見たよ。 すごいね、ナオト君。

ナオト:いい年してああいうの恥ずかしいんですけどね。ポーズ付けて加工して。でも、なかなか後が育たないもんで。

ユキミ:ナオト君は今も昔もかっこいいよ。

ナオト:ありがとうございます。ユキミさんのおかげですよ。本当にずっと俺を指名してくれてましたもんね。

ユキミ:細客だけどね。

ナオト:いや、一番長く俺を指名してくれて、支えてくれた人ですよ。

ユキミ:ホント、接客も上手くなったよね、ナオト君。何飲む?

ナオト:なんでもユキミさんの好きなモノで。

ユキミ:じゃあ、いつもので。

ナオト:ノンアルコールビール?

ユキミ:うん。つきあってよ。

ナオト:そうやって人のことばっかり気にするの変わらないですね。

ユキミ:私は飲めればなんでもいいから。

ナオト:はい。(黒服に)ノンアルふたつ。……で、今日はどうしたんですか?

ユキミ:うん、えっとね。いい事と悪い事があったから、ナオト君に聞いて欲しくて。

ナオト:じゃあいい事から。

ユキミ:借金、完済したの。

ナオト:本当ですか! おめでとうございます!

ユキミ:うん、ありがとう。

ナオト:本当にお疲れ様でした。あの時はびっくりしましたよ。レンさんのヘルプで付いてた頃、ユキミさんが突然「リシャールを二本!」って。

ユキミ:若気の至りって怖いよねぇ。今じゃあの勢いはないな。利息でどんどん増えるから、なかなか減らなくて大変だった。

ナオト:後悔してますか?

ユキミ:ううん。

ナオト:そうですか。

ユキミ:レン、どうしてるか知ってる?

ナオト:さあ、急に店をやめてから、連絡ないですから。

ユキミ:彼女さんと結婚して、田舎でバーを始めたんでしょ?

ナオト:知ってたんですか。

ユキミ:子供さんもいるんでしょ?

ナオト:……らしいです。

ユキミ:(笑う)

ナオト:相変わらず、「なんでも知ってる」んですね

ユキミ:なんでもではないよ。

ナオト:不器用なのは変わらないのに。

ユキミ:そうかな。



(コウキ来る)



コウキ:あ、ナオトさん、スミレさんから、ご指名です。

ナオト:おい、客の前で他の客の名前出すなって、何回言えばわかるんだ。待ってもらえ。

ユキミ:いいよ! いいよ! 太いお客さんでしょ。行ってあげて。

ナオト:(ため息)すみません、ユキミさん。ヘルプ誰か。そうだな、ユキミさん料理しますよね? ヨウスケが料理得意なんで話が合うかも。ちょっと呼んできますね。

ユキミ:ああ、いいよ。コウキくんと話してるから。

ナオト:でも……

ユキミ:今、忙しい時間なんでしょ? 私なら大丈夫、適当にやってるから。

コウキ:俺はいいですよ。まかしてくださいよ、ナオトさん。

ナオト:……すみません、なるべく早く戻ります。



(ナオト去る)



コウキ:あ、ユキミさん、何飲んでるんですか?

ユキミ:え? ノンアルコールビール。

コウキ:えーお酒飲めないんですか?

ユキミ:うん、あんまり得意じゃなくて。

コウキ:あー、ホストとしては、内心「ちっ」て感じですね、こっちに飲ませるばかりで、自分は飲まないお客さんって困るんですよね。

ユキミ:そうだよね、ごめんね。

コウキ:あー、お客さんにそんなこと言ったらまた怒られるなー。

ユキミ:いいよ、気にしないで。

コウキ:そういえば、ユキミさんはナオトさんを指名して長いんですか?

ユキミ:うん、10年になるかな。

コウキ:え、じゃ若い頃から指名してたんですか?

ユキミ:……うん、そうだね。

コウキ:けっこう、がんばりますねー! ベテラン的な? でも、いいと思いますよ。何歳になってもトキメキ忘れないのって。

ユキミ:……そうだね。

コウキ:ナオトさんって見た目とか普通だと思うんですけど。なんか人気あるんですよね。

ユキミ:うん、優しいからかな。

コウキ:そうですかねー? 優しいって普通じゃないですか?

ユキミ:うん、それが大事なことだから。

コウキ:そうですかねー? 俺は優しいだけじゃないホストを目指してますけどね。

ユキミ:そうなんだ。

コウキ:ユキミさんってお仕事何してるんすか?

ユキミ:え、うん……私も接客かな。

コウキ:え、そっち系なんですか? あー、最近、よく聞きますもんね、熟女系。

ユキミ:そういうわけじゃないんだけど……

コウキ:俺はぶっちゃけ若い子が好きですけどね、普通に。「お兄ちゃんー」とか言われたいなーなんて。ロリコンとか言われますけど、ぶっちゃけ男の本能なんで、許してーって感じですよ。バカなんで男って。

ユキミ:うん、そうだよね。

コウキ:あ、引きました? でも、俺、毒舌なんで。こういう毒舌を売りにして行きたいなーって。

ユキミ:そうなんだ。面白いね。

コウキ:女ってほら、M多いじゃないですか。前に、この店にいたレンさんてホスト、知ってます? オラオラ接客で、Mな女にガンガン貢がせてたらしいですねー。あれ憧れるんですよねー。「稼いで来い!」って言えば、接客とか雑でも、勝手に女が稼いで貢いでくれるんでしょ。いいなあ。

ユキミ:………

コウキ:ん? どうしたんですか?

ユキミ:なんでもない。ねぇ、なにか食べ物注文しない?

コウキ:じゃあフルーツとか?

ナオト:おい、コウキ! 3番行ってこい。

コウキ:え、なんでですか?

ナオト:いいから!

コウキ:はーい。



(コウキ去る)



ナオト:すみません、ユキミさん、あいつ失礼なこと言ったでしょ?

ユキミ:……ちょっとね。ナオト君こそ指名入ってたんじゃないの? 私、出直そうか?

ナオト:いや、大丈夫です。久しぶりに来てくれたのにすみません。

ユキミ:うーん、正直言うと、ホストさんも接客の下手な人は増えたなとは思う。

ナオト:そうなんです。なんか勘違いして来る新人が多くて。

……しっかり教育している暇もないし、席に付けたらキレて帰っちゃうお客さんもいて、どうしたもんかと思ってます。お客さんも疲れてイライラしている人が増えたから。

ユキミ:わかる気がする。私のお客さんもそうだよ。余裕がないっていうか、ギスギスしてる人が多い。昔は、優しくてチップとかくれるお客さんも中にはいたんだけど。

ナオト:ですよね、それで傷ついて、ここに来るお客さんは多いです。

ユキミ:逆に、女の子は若くてスレてない子がお金に困って来ることが多くて、心配になっちゃう。なんとか、助けてあげられるといいんだけどね。

私自身があんまり指名つかなくなってきた身だから、それどころじゃなくて。話聞いてあげることくらいしかできないんだよね。

ナオト:優しいですね。そんなユキミさんじゃなきゃ、ってお客さんもいるんでしょ?

ユキミ:うん、まあ少しはね。

ナオト:いつも思いますけど、ユキミさん、今の仕事向いてないと思います。体調、大丈夫ですか? 本当に心配してたんですよ。

ユキミ:うん、ありがとう。本業だけじゃ苦しくなってきたから、工場のアルバイトも始めたけど、なかなか厳しいね。

ナオト:そうだったんですか……。でも、借金完済したなら、一歩前進ですね。おめでとうございます。

ユキミ:うん、ありがとう。今日は「白」くらい入れさせて。

ナオト:そんな、いいですよ、無理しなくて。

ユキミ:いいの、一緒にお祝いして、きっと今日が最後になるから。

ナオト:最後?

ユキミ:なんでもない、頼んで。

ナオト:わかりました(黒服に)白一本。……それで、いい話と悪い話があるって言ってましたけど。

ユキミ:うん、悪いほうね、お店、変わることになったの。

ナオト:え、それって。

ユキミ:うん、新規のお客さんの指名が付かなくなってきたから、別の店に移動しろって、店長から。まあ、仕方ないよね。

ナオト:辞めるわけには、いかないんですか?

ユキミ:うん、工場の仕事は単発だし体力的にも週一が精一杯で。少しは貯金したいし。今更、他の仕事っていっても、なかなかね。

ナオト:……そうですか。

ユキミ:うん。

ナオト:本当にいいんですか、それで。

ユキミ:よくはないけど、仕方ない。

ナオト:(黒服が白を持ってくる)あ、ありがと。じゃあ、白いただきますね。

ユキミ:うん、ごめんね、たまにしかボトル入れられなくて。

ナオト:いつも謝ってばかりですね。いつか全開に笑ってるユキミさんが見たいなって思います。

ユキミ:それは無理かなー。

ナオト:じゃあ乾杯しましょうか。借金完済おめでとうございます。

ユキミ:うん、乾杯。

ナオト:乾杯。

ユキミ:リーズナブルなボトルだけどね。

ナオト:いえいえ、いきなり「リシャールを二本!」なんて言われるより全然いいですよ。

ユキミ:やめてよ、恥ずかしいから。

ナオト:さすがのレンもびっくりしてましたね。

ユキミ:その直後に捨てられるっていうね。

ナオト:そうでしたね。……ずっと聞けなかったことがあるんですけど。

ユキミ:なに?

ナオト:もしかして、今もレンのこと好きだったりするんですか?

ユキミ:どうかな?

ナオト:妬けますね。俺、ユキミさんには振られてばっかりですよ。俺が何度かユキミさんにイロコイ仕掛けようとしてたの気が付いてました?

ユキミ:うん、でも、いいんだよ、そういうの。

ナオト:振り向かせたかったなあ。いや、まだ俺は諦めませんよ?

ユキミ:そんなこと言って、いるんでしょ? 彼女さん。

ナオト:え?

ユキミ:やっぱり。

ナオト:かなわないなぁ。そうですね、はい。表向きいないってことになってるんで、内緒にしておいてください。

ユキミ:うん、わかってる。

ナオト:どうしてわかったんですか?

ユキミ:長年の経験かな。いい男には共通点があるの知ってる? 「誰か他の女のものであること」

ナオト:ユキミさんにとって俺っていい男なんですか?

ユキミ:もちろん、じゃなきゃ10年も通わないよ。

ナオト:信じてもらえないでしょうけど、本当にユキミさんは俺にとって特別な人ですよ。

ユキミ:うん、私もだよ。ナオト君がいなかったら、この10年生きてこれなかった。

ナオト:縁起でもないこと言わないでください。

ユキミ:でも案外冗談じゃないんだよね。ナオト君が話を聞いてくれたから、続けてこられた。細いお客さんなのにね。

ナオト:当たり前じゃないですか。いつもユキミさんが来てくれるの楽しみにしてるのに。

ユキミ:プロだね。

ナオト:それ褒めてないですよね。

ユキミ:褒めてるよ。

ナオト:もう……そうだ、ちょっと待っててもらえますか?

ユキミ:え、うん。

ナオト:すぐ戻るんで。



(間)



ナオト:お待たせしました。どうぞ。

ユキミ:え、これって。

ナオト:レモネードです。

ユキミ:メニューにないよね? 裏メニュー?

ナオト:飲んでみてください。

ユキミ:うん……おいし。これってもしかして手作り?

ナオト:はい、ちゃんと俺が作りましたよ、レモン絞って蜂蜜入れて。

ユキミ:……

ナオト:今のユキミさんには、シャンパンよりも、甘くてあったかいものがいいかなって。

ユキミ:……

ナオト:気に入りませんか?

ユキミ:ううん、おいしい。ありがとう。

ナオト:よかった。

ユキミ:本当に接客上手くなったよね。こんなテクニックまで、そりゃ売れるよね。

ナオト:(ため息)……またそうやって壁作って、入れてくれないんですね。

ユキミ:ここはそういう場所でしょ? 私たちはお金でつながってるだけ。恋人でも、友達でもない。壁の外からちょっとだけ温めてくれたらそれでいいの。

ナオト:その壁を壊して、ユキミさんだけを愛してくれる人は、いなかったんですか?

ユキミ:どうだろ、いたかもしれない。けど……私ほら、高望みだし。この仕事始めた時に、そういう幸せはあきらめてたから、いいの。

ナオト:ユキミさんは、かわいいですよ。今も昔も。

ユキミ:ありがとう。ナオト君はいつも私が欲しい言葉をくれるよね。

ナオト:やっぱり、信じてないんですね。ひどいなー。

ユキミ:そんなことないって。……本当においしい、これ。



(コウキ来る)



コウキ:ナオトさんー、なんかスミレさんがキレてるんすけどー!

ナオト:(溜息)まったくお前は……

コウキ:だってー!

ユキミ:いいよ、行ってあげて。私はもう十分接客してもらったから。

ナオト:すみません。

ユキミ:ほらほら。じゃあね、ナオトくん。

ナオト:すぐ戻りますから、待っててくださいね。

ユキミ:……うん、またあとでね。



(ナオト去る)



コウキ:あーなに飲んでるんですかー? 俺も飲みたいなー!

ユキミ:ごめん、お会計お願い。

コウキ:え、ナオトさん待たなくていいんですか?

ユキミ:うん、会計とお見送り、お願いできる?

コウキ:ああ、はい。



(店の外)



ユキミ:ありがとう、ここで大丈夫。

コウキ:ちょっといいですか?

ユキミ:なに?

コウキ:実は、俺さっき、今月中に指名とれなかったら、クビだって言われたんですよ。

ユキミ:そうだったんだ。大変だね。

コウキ:はっきり言いますけど、ユキミさん、俺を指名してくれませんか?

ユキミ:え?

コウキ:どうですか、俺じゃダメですか?

ユキミ:いや、ごめん。それは無理。

コウキ:ナオトさん、売れっ子だからどうせ狙っても無理ですよ。若くてかわいくてめっちゃボトル入れてる子、いっぱいいますから。

ユキミ:そんなこと知ってる。

コウキ:癒し系ホスト、なんて言われてますけど、ナオトさんガンガン女の子落としてますよ。ぜんぜんいい人じゃないですよ。

ユキミさんだって、ナオトさんに落とされたんでしょ?

ユキミ:違うよ。私が今の仕事をしているのは、私の意思。ナオト君は関係ない。

コウキ:でも、ユキミさん、寂しいんでしょ? だからここに来てるんでしょ? 若くてイケメンな男に、お姫様扱いされて、現実を忘れたいんでしょ?(ユキミの腕をつかむ)

ユキミ:お願い、離して。

コウキ:俺が忘れさせますよ。指名してくれたら、ホテル、いいですよ。

ユキミ:……

コウキ:ね、いいでしょ? とりあえず、近日中に。一番安いセットでいいんで。ね!

ユキミ:……(溜息)

コウキ:ユキミさん?

ユキミ:悪いけど、私、あなたに全く興味ないから。

コウキ:え?

ユキミ:私はあなたのような人を相手にするのが仕事だけど。不思議と慣れないものね。何度出会ってもやっぱり気持ち悪い。ホストには向いてないと思う。あなたに接客されるお客さんがかわいそうだから。

コウキ:……は?

ユキミ:まあ、どの道そうなると思うけど。……離さないなら警察呼ぶけど?

コウキ:は、来るわけないだろ警察なんて。

ユキミ:試してみる?(片手でスマホを取り出してかける)あ、もしもし、すみません……

コウキ:わかったよ!(離す)

ユキミ:(通話を切る)さようなら。もう会うこともないでしょう。

コウキ:あ、おい!



(バックヤード)



コウキ:なんだよ、あのババア。あんなんだからモテねーんじゃん。

ナオト:コウキ。

コウキ:あ、ナオトさん、お疲れ様です。さっきのお客さん送って来ました。

ナオト:ババアってのは、ユキミさんのことか?

コウキ:え…?

ナオト:(コウキの腹を蹴る)

コウキ:……ぐぁ……(ナオトに腹を蹴られてうずくまる)

ナオト:俺の客をバカにするな。お前はクビだ。出ていけ。

コウキ:なん、で。だって今月まだ……

ナオト:何度もチャンスはやったはずだ、忠告もした。それをお前は聞かなかった。オーナーとも話をつけてある、出ていけ。

コウキ:……そ、そんな……まって、くださいよ。

ナオト:(胸倉をつかんで)聞こえなかったのか?

コウキ:……はい。



(間)



ユキミ:(電話)もしもし……すみません、店長、こんな時間に。店、移転の件、大丈夫です。……はい……はい。わかりました。……はい、お世話になりました。いえ、大丈夫です。……わかりました。じゃあ、明日、改めてお伺いします。お疲れ様です。



(間)



ユキミ:(モノローグ)さようならナオトくん。今までありがとう。

ナオト:(モノローグ)ユキミさん、いつでも、ご来店お待ちしています。



【完】

ドンペリの泡よ消えないで 参 「飲み干した女」 (2:1)

ドンペリの泡よ消えないで 参 「飲み干した女」 (2:1)

ドンペリの泡よ消えないでシリーズ 「ドンペリの泡よ消えないで」のユキミとナオトの10年後の話 上演時間 約35分

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 青年向け
更新日
登録日
2021-12-22

CC BY-NC-ND
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CC BY-NC-ND