みんな かわいくて やばい

 ねこがないている。いまはもうやっていない、たばこやさんのまえで、ないている。かわいい、とネネは言う。わたしも、かわいい、と思う。にくたらしい、とは思わない。好きだな、とも思わないけれど、きらいではない。わたしとネネの、かわいい、は、ひどくうすっぺらい気がするけれど、さいきんの、かわいいって、だいたいは、そういう感じだし。かわいいの濫用。べつに、ぜんぜんかわいくないものにも、かわいいをつかう現代人。ネネは、どうぶつをみると、いつも、かわいいと言うのだ。息をするように。

 クリームソーダをのんでいるあいだに、ひとつの恋がおわった。
 恋人と別れたばかりなのにネネは、わらっていた。フラれたのに、わらっていた。きょうはやけ食いだと、フルーツタルトとガトーショコラとミルフィーユを注文していたけれど、わらっていた。わたしは、わらえなかった。クリームソーダの、ソーダが、なんだか、のどにまとわりついているみたいで、不快だった。
 今時のテレビ番組はみんな、似たり寄ったりだよねぇと、となりのテーブルの、おとこのひとたちが語り合っていた。わたしは、テレビはうるさいから苦手なので、今時のテレビ事情をしらないで、おとこのひとたちの会話を、なんとはなしにきいていて、ネネは、はこばれてきたケーキを、ガトーショコラ、ミルフィーユ、フルーツタルトの順番で食べた。ケーキを頬張りながらも、わらっているネネは、ちょっとこわかった。ケーキを食べているのに、ファミレスのえびグラタンが食べたいと言い出して、わたしは、ひっ、とちいさな悲鳴をあげた。おとこのひとたちのテレビ談義は、結局のところ、近頃のテレビ番組が、じぶんたちの好みにそぐわないだけの、エゴイスティックな感情論だった。

みんな かわいくて やばい

みんな かわいくて やばい

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-12-19

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