こわれた教室

 縫いあわせる。息をしているだけ、という意識は、ときどき、あたまのなかをおかしくする。うまれたときから、だれにおそわることなく、あたりまえにしている行為に、ぎもんをもつのはよくないのだなぁと思いながら、りゆうもなく天井のシミをかぞえる。縫いあわせたのは、きみのうでと、からだと、花のつると、まごころと、独占欲と、すこしばかりのうそと、たぶん、愛というもの。叫んでいる、少年少女たちが、義務みたいに。つるは、糸のかわりで、くちびるにそえるのは、花びら。はりつけて、彩って、魚のうろこのようで、きみがはやく、ぼくという存在をしぬまでうらんでくれればいいのにと祈る。学ラン、セーラー服が、奴隷服だった時代はおわって、いつも、しらないあいだに変わっていた世界と対峙する瞬間は、とてつもなくこわかった。雑音まじりの校内放送と、ドラマんなかかよ的なカースト制度。
 こわした。
 ばらばらにした。
 けれど、さみしくなって、ばらばらにしたものを縫いあわせたら、不格好で、もとにもどらなくって、不完全で、せめてものつぐないみたいに、装飾を施した(花びら)
 ひしゃげた机にあしをのせて、ツグミが、心底あきれたようなため息を吐く。かわいそうに、と言われているようで、ぼくは、かおをあげられない。じっとみつめるのは、花と同化できなかった、ただのにんげんの、きみ。かわいそうなのは、おかしくなった、ぼく。

こわれた教室

こわれた教室

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-12-18

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