疑心暗鬼

「心臓はきゅっと縮こまったままで、手は震えてる。


平均台も渡れずにバランスを崩して落ちてしまう。


怖くて焦って、不安で悲しくて


悪い夢の中みたい


いつからこんな調子かな。」


小さな声でのろのろ喋るリクガメ



「なんだいなんだい、なんでもできる気になって、なにもできないことを忘れてた?

だから失敗して落ち込んでるの?キミはもともとそのままさ。」

ペリカンは陽気に歌うように言いました。


「でも、僕はすっかり自信をなくしてしまったよ。怖くて甲羅の中から出られない。」

ペリカンは甲羅をくちばしでノックして言いました。コンコン。コンコン。


「君は甲羅があるから恐れてしまうんだよ。その甲羅を脱いでみたら?」


リクガメは篭った声でぼやぼや言いました。

「そんなの無理だ。僕はこの甲羅で僕を守らなきゃ。じゃないと生きられないんだよ」

ペリカンは笑いました。

「甲羅なんてなくてもなにも変わらないさ。その中は暗くないのかい?狭くはないかい?」

「うす暗くて窮屈だよ。」

「君のおびえてる甲羅の外は光にあふれてる。そしてとてつもなく広い。僕だってこの海をまだ渡り切ったことがないんだ」

「キミは自由でいいね。大きな翼で飛んでいけるんだろ」

「そうさ」

「僕はどんなに頑張っても大空を羽ばたくことはできないよ」

「いいや」

「?」

「君だって羽ばたける」

「どうやって?」

「甲羅からでてきてごらん。教えてあげるよ。」

リクガメはのっそり縮こまった手足と頭をのばしました

「ほらやっぱりそうだ」

「どうゆうこと?」

「君はウミガメだ」

「。。。え」



ぽろりと目から涙が落ちて

乾いた砂浜に浸み込み


青い海はウミガメを包み込みました。

疑心暗鬼

疑心暗鬼

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-12-09

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