待てど暮らせど

 古ぼけた線路の上に男がひとり寝そべって、骨の浮き出た腕を曇天に突き出して

 ある日、宇宙が落っこちた、宇宙が落っこちた、宇宙が落っこちたのだ
 それから、数十年か経って、数十年か経って、数十年か経って

 外れた宝くじは外れたまんまの紙屑で、折れたペンは折れたまんまの棒きれで

 宇宙が落っこちたのに、地上は真っ平らで
 何十年か経ったのに、漠然と霧は晴れていて

 「こんなはずじゃなかった」と、誰かが言った
 「こんなはずじゃなかった」と、私は言った
 「こんなはずじゃなかった」と、あなたは言った
 「こんなはずじゃなかった」と、宇宙は言った
 「こんなはずじゃなかった」と、月日は言った
 「こんなはずじゃなかった」と、男は言った

 「こんなはずじゃなかった」と、虚空から聞こえた

 今日もあの忘れられた線路の上にひとり男は寝そべって、ただ寝そべって
 永遠に来ない汽車の汽笛を待ちながら

 「こんなはずじゃなかった」と、どこかで笑い声がした

待てど暮らせど

待てど暮らせど

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-12-04

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