待てど暮らせど
古ぼけた線路の上に男がひとり寝そべって、骨の浮き出た腕を曇天に突き出して
ある日、宇宙が落っこちた、宇宙が落っこちた、宇宙が落っこちたのだ
それから、数十年か経って、数十年か経って、数十年か経って
外れた宝くじは外れたまんまの紙屑で、折れたペンは折れたまんまの棒きれで
宇宙が落っこちたのに、地上は真っ平らで
何十年か経ったのに、漠然と霧は晴れていて
「こんなはずじゃなかった」と、誰かが言った
「こんなはずじゃなかった」と、私は言った
「こんなはずじゃなかった」と、あなたは言った
「こんなはずじゃなかった」と、宇宙は言った
「こんなはずじゃなかった」と、月日は言った
「こんなはずじゃなかった」と、男は言った
「こんなはずじゃなかった」と、虚空から聞こえた
今日もあの忘れられた線路の上にひとり男は寝そべって、ただ寝そべって
永遠に来ない汽車の汽笛を待ちながら
「こんなはずじゃなかった」と、どこかで笑い声がした
待てど暮らせど