かわいそうなけものたちを、どうか。

 だれかに対する、祈りの代償。やさしさの精度。ぼくらのあいだの、つながり、たとえば、糸として、はさみで、じょきん、と、かんたんに切れるほどの、か細さ。赤い糸なんて、しんじていない。ゆめのはなしだ。
 花を手向ける。
 けものの、目をつぶった顔は、どことなく幼くみえる。成熟しているはずなのに、たよりない、かよわい子どもを想わせる。ノエルが静かに泣いて、天使の、ふわりとやわらかくてあたたかい声が、ぼくらに降り注ぐ。どうか、やすらかに。
 こわれた街の、おわらない夜。
 しんじることをやめた、ぼくと、すべての生命体を愛したい、ノエル。
 つめたいアスファルトのうえはかわいそうだったので、すでに廃墟となった歯科医院からブランケットを拝借して、けもののからだのしたにひろげた。見ず知らずの天使がぼくらの頭上で、ありがとう、と囁いた。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-11-27

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