汚れたベッド 綺麗な私

赫 カイリ

あーミスったな

-シュッ-
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🔍️金持ち イケメン 20代 モデルの彼女

-ポンッ-

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2045年に起きたシンギュラリティ。
大戦からちょうど一世紀。
世界は大きく変わった。
というより、世界は変わりすぎた。
シンギュラリティで産まれた彼らAIは
遂に別世界線の存在を証明、
そして世界線の移動までもを確立させた。
そして今、私はまたも私の望む世界線へ移動しようとしている。


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ドンッ

またここか。
郊外にある豪邸。横に裸で眠る私の彼女。
大きすぎるベッドに大きすぎるシャンデリア。
マイクロファイバーすら凌駕する細さの絨毯。
そして"5分前"に持ってきた、一般人は知りもしない高級ワインは私の手中。
5分より前の記憶はある。しかし行動した実感はない。思い出せる最古の記憶はこの酒をとって来たところ。
まぁ気にしていない。
だって
この世界は完璧だ。美しい。
考えたらヒビが入る。

ワインを無意味にかき回しながら考える。
なんていい時代なんだろう。
努力もせず、ほとんど落ちこぼれだった私も今はこんな素晴らしい場所にいる。
世界線移動が開発されるまでの私はどうだっただろう。
考えたくもない。
今はただ、ワインの香りだけを感じたい。


横に眠る彼女が目を覚ました。
無言で私の腕に絡みついてくる。
本当に綺麗な子だ。
彼女の右頬にキスする。
「ねぇ、昔の事を聞かせてよぉ」
本当に聞きたいのか、場をつなぐためかはわからない。
それでも私は武勇伝をつらつらと話し出す。

もっとも私に成功体験は…ない。
怠惰という言葉を体現したような、私のこの40年近くの人生には
努力体験もない。武勇伝なんて一つもない。
ただ大見得張っただけのありもしない私の勇姿。
私がなりたかった姿。
それしか私には話せない。

「すっごーい。たくさん努力したのね。かっこいいわ。」

ふざけやがって。凡庸な褒め言葉言いやがって。
私に誇れるものなどない。
これじゃまるでサッカー選手になりたいと言った子をなだめる親じゃないか。

ベッドサイドにグラスを置いた。
ヒビが入った。
「他にどんなことがあったの?」
うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。


私は彼女の上に馬乗りになり首を絞めていた。
彼女の口から溢れる吐息。
このままなかった事にしたかった。
こんな空虚な物、彼女諸共消してしまいたかった。


遂に彼女は息を吐かなくなった。
この部屋の音は私の息だけ。

なんて簡単に殺せてしまったのだろう。

ERROR!ERROR!
鳴り響く警報音。
きっと罰を受けるのだろう。

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深い反省と後悔。
自分自身が手に入れたものなら
手にかけずに済んだかもしれないな
他人に与えられた幸福はちっぽけだったな。
彼女の標本も大して美しくなかった。

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ATONEMENT!

ドンッ。

嗚呼この高架下、この帰り道。
ボロいアパートに汚い床。狭いベッドに暗い照明。
手にはストロング缶。もう豪邸はない。
彼女は消えた。


私の苦悩の時代。
私が一番輝いていた時代。
もう二度と別世界線には行かない。

汚れたベッド 綺麗な私

言っておきますが私は主人公のようであり
全くの別人です。

汚れたベッド 綺麗な私

2045年のシンギュラリティ。主人公は世界線を移動。手に入れた幸福。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-11-26

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