【二次創作】異国人形館殺人事件

【注意事項】

*この小説はボカロの二次創作です。

*この小説は作者の捏造力と妄想力を駆使して書いております。

*前作に引き続き、オリキャラが出てきます。

序章

あの事件から二週間。

どうも気持ちよくない。

二週間前の『古書屋敷』で起きた事件は、『古書屋敷』が街で有名な人物の屋敷で起きたものだから、そりゃ、新聞にも載る。


新聞に載ったせいで、花本ひばりは巷ではちょっとした有名人になっていた。

あの事件以来、自分は探偵には不向きだと感じる様になった。


もうあんなのはこりごりだ。


そう思いながら、いつもの『仕事場』に向かうひばりであった。



********


「っ……」

『仕事場』に入ったひばりは、思わず絶句した。


絶句した訳は2つ。

1つ目は、『仕事場』の足場が、その一部屋のみ、本で埋めつくされていた事。


2つ目は、その部屋のソファで顔に本を開いて乗せて、顔が見えない状態で今が午前10時だということを無視して寝ている人物を見た事。


ひばりは、細い足で華麗に本達を避けつつ、ソファに近づく。

そして、思いっきり口で息を吸った。



「いつまで寝てるんですか、久堂先生!」



ソファで寝ている男に対して、大声で呼んだ。

男―――久堂は、顔に乗せていた本(恐らく推理小説の類い)を手に取り、ひばりを見るなり、口の端を少しだけ上げて、笑った。


「何か用かね?ひばり君」


「なーにが、何か用かね?ですか!人を呼んどいて!貴方と違ってこちとら七時前に起きてるんですよ!」

ひばりは、ソファに一番近い本の山を一山、乱暴にどかした。

「私が云いたい事、解ります?」

「ソファで寝るな、布団で寝ろ、昼夜の生活が逆転している、と云いたいのだろう?」

ひばりは久堂をじろり、と睨んだが、久堂の科白で固まった。

ひばり自身が云おうとしたことを久堂は一字一句間違えず云い当てたのだ。

「図星だろう」

「うっ……」

図星だということも云い当てないで欲しい。

「まぁ、そんな事云える立場ではないという事は分かっていると思うがね」


そう云い、久堂は傍の小さなテーブルの本の山の下から、新聞を取り出した。


「そっ……それはっ!!」


ひばりは、やはりこの男は、恐ろしく頭が回り、恐ろしく意地の悪い男だと改めて感じた。


久堂が取り出した新聞は、今から約13日前―――…『古書屋敷殺人事件』が起きた翌日の朝刊だった。


「……なんでまだとってあるんですか……?」

「それは勿論、私の著書のためと、私の身内が解決した事件が大きく取り上げられている新聞だからだ」


そう云って久堂はにやり、と小さく笑ったのだった。


今回もひばりの負けである。


ひばりは、本の山を避けながら、台所に向かった。

久堂は起き上がり、ソファに座り直すと、ひばりが玄関に入るついでに持ってきた今日の朝刊を広げた。


「そういえば、ひばり君。君は学校に行かなくてもいいのかね?」


久堂がぽつりと云った。

ひばりは台所で珈琲が入ったマグカップを落としそうになった。

「な、ななな何でいきなり聞くんですか……!?」

「なんか最近、君の顔を平日の昼でもよく見るな、と思ってな」

「い、行ってるに決まってるじゃないですか……」

「いや、君の場合、二週間前の事件で霧島君の死を悲しんで部屋に籠って学校には登校したくない、というのが現状だろう」


図星だった。


「……分かりました!明日からはちゃんと行きます!」

ひばりは半分を図星で何も云い返せない怒りと、もう半分をやけくそで
久堂に云い放った。


矢張り、心は晴れなかった。

第1章

ひばりは、N県にある具備木村に来ていた。


ひばりの目の前には、異様な外観の洋館が佇んでいる。



こんな所に来た訳は、少し前に遡る。


******


ひばりは、久堂に云われ、しぶしぶ学校に出た。

久し振りに学校に出た上、名探偵花本ひばりということで、クラスメイトから色んな事を聞かれた。


そんなひばりに、ある依頼が届いた。

依頼人は、クラスメイトの御繰康。

ひばりが机に突っ伏していると、御繰康は小さく話しかけてきた。

「あの、花本さん……ちょっと、いいかな…?」

小さな顔に大きめの瞳、小さな唇。柔らかそうなロングヘア。ひばりより少々小さい御繰康は、所謂美少女だった。

「えーと、御繰、さん。どうしたの?」

まさか教師にずる休みがバレたのではないか。

嫌な雰囲気を感じながら、ひばりは御繰康の口が開くのを待った。

御繰康は、少し戸惑っていたが、話そうと決心したのか、ひばりの目を見ながら、小さな唇を開いた。


「家族の都合で今度、父親の故郷に帰る事になったのだけれど……実はその旅館がある村は、最近、異常な殺人事件が続いていて……それで、その犯人の目星をつけてほしいの。お願い、花本さん。これじゃあ、恐ろしくて夜も眠れないの。」


御繰が大きめの瞳を潤ませて懇願してきた。

ひばりはというと、


―――気がすすまないなあ……


と、心の中で呟いていた。

その表情が面に出ていたのか、御繰は涙を流し始め、しゃくり始めた。

その様子にひばりは驚くしかなかった。

「ごめんなさい、花本さん。やっぱり無理だよね、いくら花本さんでも、こんな気味の悪い依頼、引き受けたくないよね……」


「う、ううん!大丈夫、御繰さん!私がその事件、解決してみせるから、泣かないで?」

焦りに焦って、ひばりはこう云うしかなかった。


「で、でも……」


「大丈夫、私に任せて!」

結局、ひばりはその女の涙に焦った挙げ句、依頼を引き受けたのだった。
******


とは云ったものの、ひばりは心の奥底で後悔していた。

ひばりの目前に佇んでいる異様な外観の洋館の大きな看板には、『御繰亭』と書かれていた。

それにしても―――……



「……なんで先生までついて来ちゃってるんですか?」


ひばりの隣には、開襟シャツ姿の久堂が立っていた。



「取材だよ。新作執筆のためのね」

そう云って久堂はいつもの様ににやり、と笑った。

こう見えて彼は、ごく一部のマニアから絶賛されている怪異推理小説作家なのだ。

「知らないのかね?この旅館は別名『異国人形館』と呼ばれていて、ある筋では有名なのだよ」

「あ、ある筋……?」

ろくな筋ではなさそうだ。

「古くから生きた人形を秘蔵しているらしいのだ。そして夏には大抵」




誰かが姿を消す―――。




それは、今起こっている殺人事件と何か関係があるのだろうか。

背筋に悪寒が走る。

いずれにしろ、今回の事件も一筋縄ではいきそうにない。


大変な事にならないといいけれど。


「あっはっは。ひばりちゃんが眉間に皺を寄せて困っているぞ」

久堂はひばりの頭をゴム鞠の様にペンペン叩いて喜んでいる。


本当に嬉しそうだ。



「さあ、行きますよ!」



その手をはねのけて、女学生探偵花本ひばりは、御繰亭へと足を踏み入れた。

第2章

御繰亭に入ると、思った通り、中も洋風だった。


「君が花本ひばりさんですね。娘から話は聞いています。亭主の御繰太一と云います」

出迎えてくれたのは、いかにも優しそうな、御繰康の父親だった。

「そちらの方は……」

亭主は、久堂を不思議そうに見た。

「えっと、久堂先生です」

知らなさそうな顔をしたので、ひばりは改めて彼のマイナーさを感じたのだった。

ひばりがそう感じたのを久堂は勘づいたのか、ひばりはまた、ゴム鞠の様に叩かれた。


「じゃあ……とりあえず、部屋にご案内しますね」

二人は促され、亭主の後についていった。

「……わぁっ!?」

ひばりが旅館の隅々を見渡していたら、前から来た男とぶつかり、ひばりが尻餅をついてしまった。

そのせいでひばりのバッグが開いて、メモ帳や小説など、中身が少し出てしまった。

「……何をしているんだ。ほら」

久堂が呆れながらも手を差し伸べる。

ひばりは、久堂の手を握り、やっぱ優しいなぁ、と思いながら、左手で落ちたバッグの中身をまとめて、立ち上がる。

「すまないねぇ、お嬢さん」

抑揚のない声が上から聞こえてきた。その男は、ウェーブのかかったショートヘアで、眼鏡をかけていたが、着物を着ていた。物腰柔らかで、身なりは、役者の様だった。

「これ。まだ落ちていたよ」

男は、ひばりが何となく家から持ち出した、トランプをひばりに差し出してくれた。

「あ、ありがとうございます……」

ひばりが茫然としていると、男はひらりと手を振り乍、旅館の奥に戻っていった。

久堂は、さの男をじっと、目を逸らさずに、暫くずっと見ていた。



旅館は、隅々まで異国感が溢れていた。

「こちらになります」

亭主は、二階に上がり、上がってきた螺旋階段から向かって左の前から二番目の部屋を案内してくれた。

「ここまで来るのなら君は一泊するくらいの金は持っているのだろう?もう一部屋、使わせてもらえないかね?」

「も、勿論、持ってますよ!ちょっと待ってください……」

ひばりは、持参の小さなバッグから、小さいピンクの財布を出し、中身を確認しました。

「……どうしたのかね」

久堂が、ひばりの目線の先――財布の中身――を覗き込むと、中には、


電車賃らしき金と、その予備の300円しか入ってなかった。

「……ここの一部屋、幾らかね?」

久堂が亭主に聞くと、亭主は申し訳なさそうに云った。



「……●●●●●円です」



まず、桁が十倍、百倍違った。


「……仕方がない、私が払うか。相部屋でもいいかね?」

久堂はしぶしぶ、コートのポケットの中から財布を出した。


「先生……」


ひばりは感動した。まさか、いつも意地の悪い久堂が、金を出してくれるとは思わなかった。


「……後で絶っ対、返せよ」



無敵の必殺スマイルで云われたので、ひばりは、さっきの言葉を前言撤回しよう、と思ったのだった。



*****


「……」


結局、相部屋になったのだが、一瞬で沈黙が起きた。

さっきの騒がしさは一体なんだったのだろうか。


「……あの、先生……トランプで、ババ抜きやりませんか?」

なんとなく、ひばりはこの沈黙を破りたい思いで、久堂に話しかけた。

久堂は、ソファで、新聞を読んでいる。

「……大方、この沈黙を破りたいが為の提案だろう?」

いつも自分の思考を一字一句間違えず云い当てる久堂に、ひばりはもう、尊敬するしかできなかった。

久堂は座り直し、ひばりと向き合い、トランプを手に取り、シャッフルしはじめた。

ひばりも久堂が座っているソファの、向かいのソファに座り、シャッフルし終わるのを待った。





「なんでーっ!?」

ババ抜きを始めてから、既に20分を経過していた。

「なんでいつも負けるの!?」

「ひばり君、君はポーカーフェイスと云う言葉を知らんだろう」

久堂は、ひばりの分かりやすさに呆れかえっていた。

「も、もう一回やりましょう!」

「……いや、もう始めてから20分は経過しているぞ。君も負けてばかりでは楽しくないだろう、そろそろ止めたらどうだね」

久堂はそう云って、また新聞を開いた。

「……そういえば、なんの記事読んでるんですか?」

ひばりが聞くと、久堂は新聞をひばりの前に出した。


その記事の見出しは、『具備木村、またも人が消える』と書かれていた。

「……これ、もしかして……」

「この地域の新聞だ」 

久堂ソファの肘を置く所に頬杖をついた。

「『具備木村連続失踪事件、解決の糸口は見つからず』……」

ひばりは、記事を全て読み上げ、事件の手がかりを探した。

しかし、役に立ちそうなものは一つも無かった。



「うーん……分からないなあ……」


ひばりはもう、帰りたい思いでいっぱいだった。

こんな事考えるのもなんだが、せめて、事件が起きてくれればと思う。


あまりに落ち着かないひばりは、部屋を出ようと、立ち上がった。

「あの、先生、この旅館一回全て見てみませんか?先生だって、小説書くなら、旅館の全体を分かってなきゃ、書きにくいでしょうし……」

こんな広い旅館、一人では心細いと思ったひばりは、久堂を誘った。

面倒がると思いきや、意外にも久堂はソファから立ち上がり、ひばりと部屋を出、旅館の探索に付き合ってくれた。


「……広いですね……」

「迷子になりそうだな……君が」

呟いたら、なんと十倍になって返ってきた。
ひばりは久堂を睨んだが、久堂は全く動じなかった。



そんなやりとりをしていたら、正面の曲がり角から、人が歩いてくる気配がした。

ひばりは、その人物にとても驚いた。


「あ、葵彌(アオビ)さんに、奈智流(ナチル)さん……!?」


その人物達は、以前、解決した事件の関係者だったからだ。


その人物達もかなり驚いているらしく、呆然としていた。

「どうしてここに……?」

二十代くらいの女性――葵彌――が聞いてきた。

葵彌は、以前と同じウェーブのかかった柔らかそうな髪に、白いブラウスを着、以前会った時と違う色――エメラルドグリーン――の長いスカートを着ていた。

「えっと……私達は、この村で起きている事件について依頼されて……葵彌さん達こそ、どうしてここに?」

葵彌は、少し云いづらそうに、戸惑った。

すると、その隣にいた女学生――奈智流――が、口を開いた。

「……あの事件以来、あたし達の家、あまり良く思われなくなってさ、所謂、没落ってやつ。だから、あたしと姉様は、気分転換も兼ねて、旅行中って訳。」

奈智流は、以前会った時と同じ、二の腕が膨らんだ袖のついた、お嬢様の通う女学院のセーラー服を着ていた。

「こんな所に来るなんて、君らも物好きだな」

呆れた様に久堂が呟いた。

すると奈智流が、久堂に一歩近づき、云い放った。

「そう云うあんたも、こんな所までひばりに付き合ってやるなんて、あたしは、あんたの方が余っっ程、物好きだと思うけどな!」

元々、こんな強気な女の子だったのだろうか。

奈智流の本性に、ひばりは驚くしかなかった。

「なんだと?君は目上の人間に対する言葉の使い方が分からないのかね?」

「ふざけんな!あんたがあたしより上なのは背だけだ!長身で、さぞかし女に人気だろうね!あたしは嫌いだけど!」


ここで久堂のこめかみ辺りに、青筋が浮かび上がる。

「こっちも願い下げだ、このチビ。私は君の様な暇人に付き合ってられる時間は持ち合わせていない。失せたまえよ」

笑顔で怒ってる。どんな事件よりも、この男の方が何より怖いと、ひばりは感じた。

「チビ!?あんたの連れよりあたしは背は高い自信があるもんね!それでもあたしの事をチビって云う!?」

「この野郎、ひばり君の背の低さを馬鹿にするな。お前より五センチくらい違うぞ」

「ほーら!あたしはチビじゃないから!ひばりがチビなんだよ!」

「ひばり君がチビなんてとっくに知ってる」

―――あれ、いつの間にか、脱線して私の背の低さについて云ってない?

確かに、ひばりはこの年で154センチ程と、身長は低めだった。

しかし、その事について云うのはどうかと思う。ひばりは、結構、
背の低さは気にしていた事なのだ。

そう思っていても、二人は自分の背の事についてまだ騒いでいるので、だんだん腹が立ってきた。

「……ちょっと、なんでいつの間にか私の背について云ってるんですかっ!」

一喝したら、嘘の様に止まり、ひばりは溜め息をついた。

「……それはそうと、事件の事について、何か手伝える事があったら、云って頂戴ね、お礼も兼ねて、協力するわ」

葵彌が笑顔でひばりに云う。ひばりは、どっかの誰かとは全然違う優しさを持ち合わせた、良い人だと思った。


「……もうそろそろ、夕食の時間ね。私達は戻るわ。また後で会いましょう、二人共」

「ま、まさか、ひばり、その男と相部屋なのか!?可哀想に、あたし達の部屋に来るか!?」

「ひばり君が勝手に金を忘れたんだ。私が悪いみたいに云うな」

「あ、あはは……葵彌さん、奈智流さん、それじゃ……」

未だに火花を散らす二人に、ひばりは笑うしかなかった。




  

第3章

夕食は、午後六時頃に部屋に運ばれてきた。



「はぁ……。何か本当に旅行に来たみたいだなぁ……」

何も起こらないので、事件を解決しようにも、手のつけようがない。

「……先生、これからどうしましょう」

「……」

久堂といえば、先程のやりとりのせいでここ一時間程、ずっと不機嫌だ。

ひばりはもう、この空気をどうにかしたかった。

ひばりは、机の足元に置いてあった新聞を取った。

具備木村連続失踪事件の記事を開く。

どうやら、この事件の被害者は、失踪して半日経ったあと、必ず遺体で発見されているらしい。

だから被害者の親族らは、被害者が失踪しているとは気づかず、発見された時、辛さや犯人への憎しみは倍増する訳だ。

それに、被害者の発見時の姿が、残酷というか
―――…


奇怪なのである。



被害者は、体のあちこちからピアノ線の様な糸が出ていて、まるで、機巧(カラクリ)人形なのだ。

しかも、そんな細い糸が体についているなら、薄い人間の肌なら、必ず切れる。しかし、被害者は傷一つないのだ。



犯人は何故、このような事件を起こしたのか。



ひばりは寝るまで、犯人が本当に人間なのか、本当に人の子なのか、不思議で堪らなかった。



******



二日目は、久堂を無理矢理起こして、ひばりは旅館内を探索した。


「何ぃ!?亭主がいないィ!?何じゃそりゃぁ!」


一階のロビーから、男の怒声が聞こえた。

その怒声のせいで寝起きで不機嫌だった久堂を更に不機嫌にした勇者を見るべく、ひばりは久堂を押して一階に下りてロビーに向かった。


そこには、久堂には劣るが、長身の、屈強な(ここは久堂が劣る)男がいた。


その男は、この旅館の人間に怒鳴っている。

「俺は、この旅館の亭主に用があんだよ!」


ここで、久堂のイライラは上限を超えたらしい。

久堂は長い脚でずんずん進み、男に近づき、怒りを爆発させた。

「うるさい!!!!今何時だと思ってるんだ!!!!」



ちなみに今は午前9時である。起きていない方がおかしい。

「な……何だぁ?お前……」

男は久堂を見て、ぎょっと驚く。

「……すいません、失礼しましたー……」

ひばりは久堂の怒りを抑えて、その場を離れようとしたら、今度はあちらから引き止められた。

「……嬢ちゃん、もしかしてあの『女学生探偵花本ひばり』か!?」

最悪だった。

まさか、私のことを知ってる人間がいたとは。

「凄いなあ、まだ女学生なんやろ?尊敬するわぁ!」

男はいきなり初対面のひばりの手を取り、力強い握手をしてきた。男の大きい手は力が強すぎて、痛かった。

「おい、馴れ馴れしいぞ!」

いつの間にか、奈智流が三人の前にいた。

遅れて、葵彌がロビーに来た。

「何や何やぁ……亭主に用があるってぇのに、関係ねぇ奴ばかりぞろぞろと……」

「か、関係無くないです!私達、具備木村連続失踪事件を解決しに来たんです!」

男に対し、ひばりは精一杯の気持ちで云い放った。

「へぇ……流石、女学生探偵やなぁ……」

感心された。

「……なら、今回は俺らは敵やな」

男は、にやり、と笑って、ひばりに低く云った。

ひばりは、その笑い方が、自分の隣にいる男に似ていると思った。


「俺は警察庁具備木村支署の谷村勝平。覚えといてくれ」

男――谷村――は、にかりと笑った。

「そっちの嬢ちゃんらは、五十嵐の親族やろ」

谷村は、葵彌と奈智流を見て、云った。

「云い難いんやけど、五十嵐凪は無罪にゃならんぜ。あいつの方が不利やからな。まあ、軽くて懲役何十年、重くて――……」

「云うな!」

奈智流が悲鳴に近い声で叫び、ロビーは静かになった。

呆然としていたひばりは、いつもの如く口から大きく息を吸い、いつもとは違う標的に向かって力いっぱい声を出した。



「最低!レディーに向かってなんなんですか、その口の聞き方!」



ひばりの声が、静かなロビーに響き渡る。

「ふっ……はっはっは!嬢ちゃん、面白いなぁ!」

谷村は大きな声で笑い、またにやりと笑った。

「勝負しようや、女学生探偵。どちらが早く、正確に推理し、この事件を解決できるか。断るのはなしやで」

「……っ……」

火に油とは、こういうことも云うのだろか。

「推理、楽しみにしてるで。女学生探偵花本ひばりちゃん」

また、面倒な事になってしまったらしい。




「きゃぁぁぁあぁぁぁああッ!!!!!」




突如、旅館内に女性の悲鳴が響き渡った。

「ひ、悲鳴!?」

「……」

「こっちか!」

谷村は声のした方に駆けていった。

「せ、先生……!」

「とりあえず、私達も行くか」

慌てるひばりとは裏腹、久堂はいつもの冷静さを取り戻し、谷村の後に続いた。

ひばりも、久堂の後を追いかける。

「あっ、葵彌さんと奈智流さんはここにいてください!」


関係の無い、女の二人を巻き込みたくなくて、ひばりは葵彌と奈智流を引き止めて、また久堂を追った。



*******


悲鳴の主は、一階の一番奥の部屋にいた。

その女性は恐怖のあまり落ちたのか、車椅子が近くにあった。ひばりには少し嫌な思い出を思い出させた。

「警察だ、何があった?」

谷村が女性に警察手帳を見せ、話しかける。

「あっ……け、警察の方……?」

女性は真っ青になりながら、蚊の鳴くような小さな声で呟き、震える手で、部屋の中を指した。







部屋の中には、亭主の機巧人形が、天井から吊り下がっていた。

第4章


亭主が、『機巧人形』になって、天井から吊り下がっていた。



その現実は、信じ難いものだった。



「ちっ……今度の被害者は亭主か」

谷村が舌打ちをし、低く唸る。


「……傷一つ無いな」

久堂が、表情一つ変えず、遺体に近づく。そして、遺体には触らず、顔、手足を眺める。


「げ……お前、そんなのよくじろじろ見れるなぁ……」

谷村が久堂を不気味がる。ひばりだって同じ気持ちだ。

「まさか、お前が犯人とか、云わねぇよな?」

「生憎、そんな趣味は持ち合わせていないよ」

久堂は、谷村の一言を鼻で笑った。


「く、久堂先生……あの、とりあえず、その手、洗ってから私に近づいてくださいね……」

第一発見者の女性は泣いていた。ひばりも、もう泣きたかった。

「だから、触っていないだろう」


「おっ……お前、まさか……あの、怪奇推理小説作家の、久堂蓮真……!?」

いきなり、谷村が久堂に驚く。

久堂は、「全く、表情の忙しい男だな」とでも云いたげに、溜め息をついた。

ひばりはというと、久堂のマイナーさが少し減ったことに、何故か安心していた。


「こりゃ、有名人揃いやな……そこのお二方には、勝てる気ィせぇへんわ……」

谷村はくっくっと喉で笑ったあと、顔を強張らせ、云い放った。



「この旅館内にいる奴、全員をロビーに集めろ!」

異国人形

――――オ前ニ分カルカナ?


よいこらせっと糸を巻く



「ゆーなゆーな、みなまで云うな」


良い子等生徒意図を撒く




『繰り糸、断ち切るの』





『お前に分かるかな?』




その後は云わぬが花

第5章

この旅館内に居た、約20人が、一階のロビーに集められた。


「第一発見者は、あんたか……」

第一発見者の女性に谷村は話しかけた。女性は、艶やかな、長い黒髪を持っていた。

「あの……もしかして、目……」

ひばりが聞くと、女性はひばりに車椅子ごと、体を向けて、顔を見せた。


その目は、サングラスの丸いレンズの中で、瞼を閉じていた。


「……そうなの。私、生まれつき、目が見えないの」

その笑顔は、少し寂しげだった。

「あ、えと……ごめんなさい……」

「いいの。気にしてないわ。謝らないで?」


「しかし、よくその目で亭主が死んでいる事が解ったな。」

久堂が女に話しかけると、女は、久堂を見て笑い、


「目が不自由なお蔭で、鼻が利くの。犬程じゃないけど」


と、云った。久堂は、「そうか」とだけ返し、ロビーのソファに座って、考え込んでしまった。

「とりあえず、その血まみれの洋服を着替えた方がええ。一旦、部屋に戻りや」

「あ、ありがとうございます。それじゃあ」

谷村に促され、女は、自分の部屋に戻った。


「今のは……浅木洋子か」

谷村は、いつの間にか、旅館の人間に貰ったであろう、名簿の様なものを手にしていた。

「で、あんたらが花本ひばり。そっちが、久堂蓮真。で、あんたが……」

谷村は、久堂と向き合ったソファに座っていた男を見て、言葉を濁した。


「唐島宗達だよ。」

男は顔を上げて、丸眼鏡の中の目を細めて微笑んだ。

「……唐島……?」

久堂は、唐島の苗字を呟いた。そして、思い出したように云った。

「ああ、古書店の名前だ」

「えっ?あの古書店、唐島古書店って云うんですか?」

ひばりは、いつもの古書店の名前を知らなかった。久堂は呆れた様にひばりを見て、

「……毎日の様に行ってるくせに、君は失礼だな」

「うぐっ……」

「まあまあ、そのくらいにしなよ」

唐島が二人を止める。

「……君は……唐島雪次郎の従弟(イトコ)だろう」

「えぇッ!?」

ひばりはまた驚きを隠せなかった。しかし、久堂の溜め息を聞いて、ちょっと黙っておこうと思った。

「あの……その本、もしかして……」

ひばりが細めてについて聞くと、唐島はひばりの方を見てまた、同じように微笑んだ。


「これ?『古書屋敷殺人事件』だよ。そこにいる、久堂先生のね」

「せっ……先生!先生の小説を読んでくれている人がこんな所にも……!」

ひばりは、嬉しさのあまり、久堂の肩を叩き、呼び掛けたが、久堂は、腕を組み、まだ考え事をしているらしく、聞こえていないようだった。

「………おや」

唐島は、本を見て、小さく驚いた。

「どうした?」

谷村が話しかける。


「……栞が無い」



「栞?」



「失くしたのか」

「多分」

「それ以外に何があるってんだ」

谷村が唐島にぶっきらぼうに放った。



「盗まれた……とか?」

ひばりは、思わず口に出してしまった。

「……それは、有り得ないねぇ、お嬢さん」

唐島は、抑揚の無い口調でひばりの考えを否定した。


「僕は、この本を今日一日中手にしていた。盗られる事はまず無いよ」

恐らく、この抑揚の無い口調が、この男のいつもの喋り方なのだろう。


「た、大変です!」



この旅館の人間の一人が、慌ててロビーに入ってきた。


「お前……なんで、まだ……」



「に、人形が、人形が……」

「人形?」




「異国人形が、無くなってる……!」



「異国人形?」


旅館の人間に聞くと、異国人形とは、この旅館の一室にあるらしい。

その一室では、異国人形を多く展示しており、今回は、その一つが消えたらしい。

「犯人が盗んだのか……?」

「でも、どうして……?」

ひばりは、黙っていられなくなり、谷村におそるおそる話しかけた。

「あのー……谷村さん……?」

「ん?」

「私、その、人形が展示してある部屋……見てみたいんですが……」

「なんでや」

谷村は仕事のスイッチが入っているらしく、先程とは違う口調で、ひばりを睨んできた。

しかし、似たような事を毎日、自分の隣の男で体験しているし、いつもはその男に向かって明るい声で対抗しているので、抗体はできている。

「私、その部屋で犯人の証拠があるかどうか見たいんです。お願いします」

ひばりは、少々上目使いで谷村に懇願した。谷村はその手に弱いのか、意外とすんなり許可してくれた。

久堂には冷たい目で見られたが、そんな事、ひばりには関係ない。

「さあさあ、先生も行きますよ!」


嫌がる久堂を無理矢理引っ張って、ひばりは人形が展示してある部屋、旧館の二階に向かうべく、旅館の正面玄関の大きな扉を開けた。

第6章

「ここが人形の部屋がある、御繰亭の旧館……」

旧館は、本館より少し小さい。ここに、人形が展示してあるのだ。

本館の壁より、旧館の壁は雨のせいか、白い壁が黒ずんでいた。

「この旧館が建てられたのは明治7年。明治維新の真っ只中に異国風の旅館を建てたせいか、当時はかなりの客が来たらしい。しかし、初代の亭主が亡くなり、時代は日露戦争へと移り変わるにつれて、異国人形館は村以外の人間の心から、姿を消した」

久堂は、淡々と、旧館の歴史について語る。

「そして、今の亭主が支配人になると、この村の中でも、奇怪な噂が立ち始めた。生きた人形が、人間を拐い、殺す……。かつて人々に愛された具備木村の誇りだった『御繰亭』は、いつしか『異国人形館』と呼ばれる様になってしまった」

久堂は、旧館から目をそらさず、強い眼差しで旧館を見ながら、全てを話した。

「……ひばり君、この事件は……」

久堂は、絶句した。ひばりは、


ひばりは、号泣していた。


「そ、そそそそんな理由で、ごんな、いい、旅館、が、異国人形館なんで呼ばれる様になっだなんてぇぇぇぇ!」

「と、とりあえず顔にある穴から出てくる液体全部拭け!」



数分後。

「……犯人は、この旅館の噂に便乗して、亭主さんを殺したのでしょうか……」

「恐らくな。……それを解明するために、君はここへ来たのだろう?」

久堂は、いつものように、口の端を上げて、ニヤリと笑った。

いつもは腹が立つ笑いなのに、今日は、何故かその笑顔が頼もしい、男の笑みだと、ひばりは感じた。


旧館に入ると、まず目に入ったのは、やはりロビーだった。

明治維新の面影が未だ残って、新鮮な気さえした。

ひばりと久堂は、どんどん歩き、赤い絨毯の螺旋階段を上がり、二階の奥の、人形が展示してある部屋にたどり着いた。

「き、緊張する……」

「なんでだ。開けるぞ」

「ちょ、先生、まだ心の準備が」

久堂は、いつの間にか、いつもの意地の悪い笑みを顔に浮かべていた。この男は、また、いつものように、困っているひばりを見て、楽しんでいるのだ。

ひばりは、先程自分が感じた事を前言撤回したかった。


扉を開けると、暗い部屋が現れた。旧館は電気が普及していないため、昼間でも全体的に薄暗いのだが、この部屋は、一段と暗かった。

「ちょっと、先生?どこにいるんですか?」

この部屋は他の部屋より広いせいか、ひばりは久堂を見失った。

「先生……きゃぁぁあっ!?」

ひばりが触ったのは、青い洋服を着た、金髪の、青い瞳の女の子の異国人形だった。

悲鳴を上げたひばりの頭に、男の手が乗った。

「先生?」

その手は、久堂の手ではなかった。そう気づいた時にはもう、遅かった。

ひばりは後ろからハンカチで何かを嗅がされ、そのまま意識を失った。


「ひばり君?」

異変に気づいた久堂は、暗い部屋を迷わずひばりの元へ駆け寄る。一時期電気が止められた時があったせいか、暗い部屋でいつも書いたり読んだりしているせいか、夜目がよく働いていた。

その目には、ひばりが倒れているのも、憎い程綺麗に映していた。

「ひばり君!?」

久堂はしゃがみ、ひばりの喉に手を当てた。


眠らされているだけだ。


見上げると、男が立っていた。



「この……」

久堂は何故か怒りが込み上げてきた。

男が、立ち上がった久堂に対して、ゆっくり近づいてくる。

久堂は意識の無いひばりを左腕に抱えて、部屋を出ようとした。

「!」

男は、久堂に向かって殴りかかってきた。久堂は危ない所でそれを避け、ひばりを抱えながら、低い姿勢のまま、男の腹に蹴りを入れた。

久堂は別に運動神経が別格いい訳でもないし、まして暴力を振る事とは程遠い人生をを送っているのだから、人を殴るのはあまり良い気はしなかった。

男がぐらついた所で、久堂は男の正体に気づいてしまった。

久堂がたじろいた瞬間、男は次の行動に入っていた。

気づいた時には、もう遅かった。


「ぐッ……!?…ッ…」


真正面から頭を固い物で殴られ、その場に倒れた。辛うじて意識はあるものの、力が入らなかった。

その間に抱えていたひばりを、男にすんなりと捕られた。


「……ひば……」


とどめを刺された。久堂はその瞬間、



意識が途絶えた。

第7章-小説家視点-

――――ここは、どこだろうか。


自分の左目の上辺りに違和感を感じ、触ってみると、痺れに近い感覚が体中をよぎり、それが痛みで、怪我をしている事に気づくのに数秒かかった。



ここ数十分の記憶が飛んでいる。



確か、私はひばり君と御繰亭の旧館の、人形の部屋に来て――――。


思い出した。



私は倒れていた体を起こし、すぐに立った。


ひばり君を探さねば。


額の痛みのせいで視界がぶれる。

確かに、私はこの目で犯人を見たはずだ。だが、どうしてもそこだけ思い出せない。


人形の部屋を探してみるか。


私は何故か、人形の部屋の2つ隣の部屋の前に倒れていた。
犯人の仕業だろう。だとしたら、あの部屋に知られたくないものがあるという事だ。つまり―――。



ひばり君が幽閉されている可能性が高い。



私は人形の部屋のドアを開ける。さっき暴れた時のままだ。

私が立った所は丁度、さっき私が殴られた所だった。その証拠に、血痕が床にある。


――――ん?この跡……何故、こんな所に?
血痕とは違う跡が、少し離れた所にあるのを、私は見つけた。

私はしゃがんで、その跡を辿ってみる。

やはり、ドアの方に続いている。


まだある。紐が落ちていた。これは……。

栞の紐か?何故、紐しか見あたらない?

とりあえず、私は紐をズボンのポケットに突っ込んだ。


しゃがんで見ると、意外にも犯人は証拠を残している。全く、親切な犯人だな。


人形が飾られてある棚の下にも、証拠を残してくれていた。



これは――――……。


嗚呼、犯人を思い出した。

しかし、まだその根拠が分からない。



犯人は分かった。次は「何故、犯人は犯行に及んだか」、「How done it?」か。これもまた、推理小説には大切な事だ。


しかし、まずは、ひばり君を探す事が優先だ。

この部屋にはいないらしい。物音一つしない。

人形の部屋を出て、螺旋階段を降りて、一階の部屋を見て回る。


この旧館にも、書庫はあるのか。

一階の奥の部屋は、書庫だった。私は薄暗い部屋に入り、本を一冊、手に取った。埃かぶっている。

異国人形の履歴?本を開くと、英国やら仏国やら、外国の名前とその国の者であろう人名と、年月日が書かれていた。

これは、人形を寄贈してもらった年の履歴か?

と云う事は、かなりの異国人形を貰ってるんじゃないのか?

パラパラと捲ると、最後の頁に、『機巧人形 御繰太一 大正十二年八月三十日』と書かれていた。

書き方が違う。それに、結構最近の事じゃないか。

後で書き足したのか?

だとしたら……

私は、一つ前の頁を開く。これは、明治の履歴じゃないか。

私は、隣にあった履歴を取り、最後の頁を開く。

やはり、機巧人形の履歴があった。

しかし、そんな人形はあの部屋には無かった。

人形の部屋はまだあるのか?

考えていたら、二階が頭に浮かんだ。

そういえば、ひばり君は無事なのだろうか。怪我はしていないだろうか。

私は、自分が怪我をしている事もすっかり忘れていた。痛みも、もう慣れてしまった。しかし、出血が止まらない。

とりあえず、服の袖で止血を試みたが、袖が真っ赤に染まっただけだった。

今考えてみれば、次は出血多量で倒れかねない。そんな事になったら、意味が無くなる。


一旦、書庫を出て、ひばり君の捜索を再開する事にした。



「―――――ぃ……」



ん?今……。

二階から、小さく声が聞こえた気がした。



螺旋階段を駆けて、広い廊下を走る。




「ひばり!」




何故か、呼び捨てで名前を叫んだ。


「――先生!」



確かに聞こえた。



「どこだ!」




走りながら叫んだ。声が近い。必ず近くにいるはずだ。



「先生!」



声がした部屋についた。息切れと、心臓の鼓動と共に、額の痛みと出血が重なる。



「ここだ!」




私は、力の限り、その重いドアを開いた。

第7章-女学生視点-


――――ここはどこだろう。

真っ暗で、何も見えない。

確か私は、久堂先生と、御繰亭の旧館にある、人形の部屋を……



「せっ……先生!?」



やっと、意識が正常に戻った。

私は、体を起こし、辺りを見渡してみる。

別に私は夜目が凄い訳じゃないから、あまり見えない。

しかし、私は旧館の一室にいるらしい事は分かった。この埃っぽい匂いは、意識を失う前にも、嗅いだ覚えがある。


「久堂先生ぇぇぇぇ!!!!どこですかぁぁあぁっっ」



こんな時は、大声で叫ぶに限ると思ったけど、応答なし。部屋に私の声が響くだけ。

「あれ、もしかして……」

私は、ある事に気づいた。


「もしかして、私、監禁されてる……?」



所謂、幽閉か?

ど、どうしよう!とりあえず、先生を探さなきゃ!

でも、私の近くには、先生は見あたらない。

一人でこんな暗い部屋にいるなんて、か弱いひばりちゃんには堪えられません!

「とりあえず、立とうか……」

独り言を漏らして、壁を探し、立とうとする。

その時、私の手に、何か、固い物が触れた。


「うっ……ぎゃぁぁあぁっっ!?」

咄嗟に退いてしまったが、暗い部屋でも、私の目に、それが何か、はっきりと見えた。

「……これは……」



見上げると、それは、異国の機巧(カラクリ)人形だった。

こんな綺麗な人形、今まで生きてきた中で、一度も見たことがなかった。

怖い程綺麗で、たじろいてしまう。

人形は洋服を着て、いつか動く事を待っているかのようだった。

私は、一度だけ、



その機巧(カラクリ)人形が、笑ったように見えた。



それのせいで一歩退くと、壁に当たった。しかもその壁は私の重みのせいで動いた。

私、そんなに重いの!?


「うわぁっ!?」


動いた壁はドアだったらしい。そのドアはすぐに閉まってしまった。

「あれ、ここ……」

私が今までいた部屋の隣は、先生といた、人形の部屋だった。

そういえば、先生、どこにいるのだろうか。
 
犯人に倒されちゃったかな?だって先生、いろいろ怖い人だもん!先生、大丈夫かな?怪我とかしてないかな?

ずっとそんな事思っていると、目の奥から、熱いものが込み上げてきた。


「先生ぇぇぇぇっ!!!いい加減、現れろぉぉぉっ!!!」

何故か怒りも込み上げてきた。


「………り…」



何か聞こえた気がして、はっと顔を上げた。



「先生?先生!」



「どこだ!?」


確かに聞こえた。いつも私の事をからかって、でも、いつも私を助けてくれる、久堂先生の声が。



「先生!」




もう一度叫んでみた。

そしたら、ドアの方から音がして、少し、光が見えた。



「ここだ!」



息を切らして、久堂先生が入ってきた。



「ひばり!」


「せ、せ、先生ぇぇぇぇっ!!!」



私は、感極まって、先生に抱擁と云う名のタックルを入れた。

抱擁と云っても、私が抱きついただけで、全然抱擁じゃないけど。身長差ありすぎて、無理だった。

「うわぁぁぁっ!先生、遅いんですよぉぉぉっ!ひばり、死ぬかと思ったんだから!遅いんですよぉぉぉっ!」

「二回も云うな!それが助けに来た私に対する言葉か?」

そう云いながら、先生は私の頭に手を乗せて、撫でてくれた。という事は怒ってないという事だ。

「……子供扱いですね」

「してないしてない」

「してます!その手をどけてください」

「本当は嬉しいくせに。じゃあ、自分でどけろ」

「ぐぬぬぬ…………。きゃぁぁあっ!?先生、怪我、怪我してます!」

私が慌てると、先生は少し驚いて、私の頭から手をひいた。これが目当てだったのは内緒で。

「ど、どどどどうしたんですか、これ……」

私が見ると、先生の額から、真っ赤な血が綺麗に顎まで一筋の線を作って、滴っている。

私が手を近づけると、先生がかがんでくれた。見てみると、痛々しい傷口が、先生の左目の上にあった。

「せっ……先生の綺麗な顔に傷がぁぁあっ!誰だこのやろぉぉぉっ!」

思わず、先生の頬を両手で挟んだ。

「あ、ごめんなさい。痛かった?」

「別に、このくらい痛くない」

本当は痛いの我慢してるくせに。かっこつけちゃって!

先生から手を放したら、先生が私の頭を撫でてくれた。

また、子供扱いですね。

「……やめてください」

「あっはっは。面白いなあ、ひばりちゃんは」

面白がってる……。

「おんぶしろ」

私は怒った勢いで無茶な要求をしてみた。

「アホか。君はもう子供じゃないだろ」

さっきまでの子供扱いはどこ行ったんですか久堂蓮真先生よぉ!

都合の良い時に大人扱いしやがって!

「……じゃあ、お姫様だっこでいいです」

「馬鹿。もっと無理だ」

笑顔で要求したら、真顔で拒否された。

「……君は、怪我は無いのか?」

「ありません」

「……ならいい。とっとと歩け、小娘」

真顔で、私の無事を安心してくれたと思ったら、意地の悪い笑顔を浮かべて、すたすたと歩き始めた。

嗚呼、これが狙いだったのか!またはめられた!

「酷い!先生のドS!最低!」

「あっはっは!何とでも云え」


とりあえず、私と先生は部屋を出た。

ロビーの時計は、なんと、もう午後4時を指していた。
そんなに時間は進んでいたのか。

そして、旧館を出て、他の人がいる、本館に向かった。



私を見つけてくれた時の久堂先生が、かっこよくて、惚れ直したかもしれないのは、内緒だったりする。

第8章

「嗚呼、先生!やっと起きた!死んだかと思いましたよ!」


久堂が目を覚ました時、初めて見たのは、ひばりの顔だった。


「……ここは……?」

「御繰亭の本館ですよ。先生、急に倒れて驚きましたよ!おぶってくの大変だったんだから!」

「そのせいで、ズボンの裾が汚れてるのか」

「うっ……」

どうやら、出血多量で倒れたらしい。額に触ってみると、包帯が巻かれていた。

「でも、すぐに谷村さんが助けてくれました!」

久堂は、もう一度気を失いたい気持ちで頭が痛かった。

「なんでそんな嫌そうな顔するんだよ」

丁度、谷村が部屋に入ってきた。

「災難やったな」

「お前に運ばれた方が災難だ」

どうしてこう、久堂と谷村は仲が悪いのだろうか。

ひばりは色々疲れて、寝たかった。



「それで?何か証拠は見つかったんか?」

谷村は、ひばりに話をそらす。

「あ……えっと……」

「……嬢ちゃん。云いたい事がある」

「え?」

いきなり話題を変えられて、ひばりは驚く。

谷村は、口の端を上げて、ニヤリと、罵倒するかの様に笑った。





「鈍感な娘に、密室はまだ早いぜ」





ひばりは、妙な感覚に襲われた。


違和感が頭から足の爪先にかけて、よぎる。

この人も、確かに、犯行時刻、アリバイがあるはずなんだ。

犯行時刻は、昨夜から今日の午前10時にかけて。



犯人は、煙の如く消えてしまった。



「……物の怪……?」

ひばりが、唸りながら呟く。


「さて、自分は警察の仕事を全うしますかね」

谷村はそう云って、部屋を出てしまった。

あんな事を云うのだから、ひばりが捜査の邪魔だと思っているのだろう。


そんな事を考えていると、お腹が鳴った。かなり大きかったので、久堂に聞こえていて、笑われた。

「……そろそろ、夕食の時間でしょうか?」

「まだ午後4時だと思うが」

久堂が時計を見て、時間を確認する。

「……なんだ?これは……」

久堂が時計を見て茫然としている。訳が分からず、ひばりも時計をみる。

「……え!?」



ひばりは驚きを隠せず、思わず立ち上がってしまった。


先程見た時計では、午後4時を指していた針は、


午後12時を指していた。


「どうして!?旧館で見た時計は、壊れてたの!?」

「いや、時計は電池やら、動力が切れると時間は遅れ始めるんだ。早まる事はない」

久堂は長い足を組んで、冷静に頭の中を整理している。

「……そういえば、あまり口に出したくないが、谷村は……」

「谷村さん?谷村さんは、時間は大丈夫なんでしょうか」

「ああ。あの旧館に行っていない限りな。」

「その、谷村さんが、どうかしたんですか?」

「……私が倒れた時、あいつは、どこから現れたかと思ってな」

「えっと……本館の正面玄関から出てきましたよ?吸おうとしてたのか、煙草くわえてたけど」

「……そうか」

久堂は黙り込んでしまった。ひばりは、落ち着かなくなったので、バッグに入れて持ってきていた、キャラメルを一粒、口に入れた。

「……くそ、完全に犯人にはめられていた」

「……え?」

久堂は悔しげに顔を歪める。その頬には汗が一筋、通っていた。

「どういう事ですか、先生?」

立ち上がってテーブルに両手をつき、焦りながら久堂は云った。



「嗚呼、全ては錯覚だったんだ!」




ひばりは、久堂がこれ程焦っているのを初めて見た。

今回の事件はかなり難しいらしい。



「……大体、犯人の目星はついた」

「え?本当ですか?」

「なんで嘘をつく必要がある?」

「……そう云われれば、そうですけど……」

「行くぞ」

「ど、どこにですか?」



「一階のロビーだ」


久堂はすたすたと足早にドアに向かって歩く。



ひばりは、訳が分からずにその背中を追ったのだった。

謎解き


容疑者は、全員、一階のロビー――広間――に集まった。


謎解きはもう仕舞い




「犯人はあなたです」




「そう、私が……」





Who done it?

第9章

「犯人は、青い目を持つ異国人形が憎かった」



久堂は最初に、呟いた。


「具備木村の失踪事件及び殺人事件……関係者は、この旅館で人形の部屋に入った人間だった」

「……犯人が分かったんやな」

谷村が久堂に話しかける。

「……云ってもいいのか?」

久堂は、意地の悪い笑みを浮かべ、なんとも楽しそうに谷村に聞く。

「話したくねぇのか?」

「いや、話したくてしょうがない。しかし、物事には順序と云うものがある。」

腕を組み、久堂はテーブルに向かって歩き始める。


その後ろから――――女学生探偵花本ひばりが現れた。


「女学生探偵……」


「……その呼び方、止めてくださいませんか……?別に私、探偵じゃないし……」

「嬉しくないのか、以前の君なら絶対に喜ぶはずなのに」

久堂は未だ笑みを浮かべ、ひばりに話しかける。

「……先生、絶対に気づいてたでしょ」

「なんの事かね?」

ひばりは今日一番、帰りたいと思った。

「……まあまずは、本題にはいったらどう?」

抑揚の無い声で唐島が云い、一旦広間は静まった。


「犯人は、ピアノ線を天井から吊っていた。そうだろう?」

久堂は谷村に聞く。谷村は頷き、

「ああ。気味悪がって皆近づかないが、ピアノ線は体の中から出ている様に見せかけてあった」

「私はこの目で見たからな。間違いはない」


そういえば、彼はなんの躊躇もなく、遺体に近づいていた。

そういうことだったのか、と、ひばりは思った。

「じゃあ、吊っていた遺体はどう説明する?」

確かに、このままでは遺体は宙に浮いていた事になる。



「簡単な事だ。別に宙に浮いていたなんて事はない。


ただの絞殺だ」




「――――え?」

一同は驚くしか出来なかった。


「驚くのも分かる。人間は奇怪なものを見ると、そっちの方に目が集中し、普通のものは見えなくなる。だが、死体を間近で見た私は、被害者が紐で吊られていたのを見た」

「……犯人は、それが狙いだったんですね」

ひばりが久堂に近づいて、静かに云った。

「ああ。犯人はそれによって、人形に人間を近づけさせない様にした」

「……なんのために?」

谷村の、低い声がロビーに響く。



「……それは、本人に聞けば分かるだろう。なあ、ひばり君」



「は、はい」


ひばりは、久堂の問い掛けに、しっかりと頷いた。



今度こそ、犯人が解った気がした。







「なんで、事件を起こしたんですか?





浅木洋子さん」






ひばりは、一番カウンターの近くにいた、盲目の女に声をかけた。





「な、なんで、私が?」

浅木は、驚きを隠せなかった。

「旧館で、タイヤの跡を見つけた。しかし、君も嘘をつくのが上手いね」


久堂は不敵に笑う。


「本当は歩けるのだろう?」



「えっ?」


ひばりも、驚きを隠せなかった。

「……なんで、解ったの?」


浅木は、すんなりと車椅子から立ち上がり、一歩、ひばり達に近づいた。



「車椅子で螺旋階段は登る事はできないだろう」


「―――っ…!」


ひばりは、こんな簡単な事、何故気づかなかったのだろうと思った。



「だが、女の身で車椅子を運ぶ事は無理難題。そこで、男の手が必要となる。そうだろう?ポンコツ警察」



「何ぃ!?」

谷村が怒るのも無理はない。


「お前なら、車椅子の1つや2つ、軽々持てるだろ」

「馬鹿野郎!車椅子ってのはな、人が乗るから結構重く作られてるんじゃないのか!」

谷村の怒声を待っていたかの様に、久堂はニヤリと笑った。


「もし、『そのために』、軽量化されていたとしたら、どうする?」

「――――…は?」


「車椅子は、大抵、タイヤが一番重く作られてるのだろうな。そんな事したら、女子供は力が無くてタイヤを回せなくなる。そこで、タイヤを限界まで、軽量化させたのだろう」


完全に、久堂が圧していた。


「……証拠は、あんのか?俺が旧館にいた、証拠は!」

谷村の怒声が、ロビー全体に響きわたる。



すると、久堂は、ズボンの右ポケットから、小さな紙切れを出した。




「え、ちょっと、これ…!

わ、私の写真じゃないですか!」


ひばりは驚愕を顔に浮かべる。



確かに、これは、2週間前、新聞で『古書屋敷殺人事件』が載った時、新聞記者が無理矢理撮った、ひばりの写真だった。



「ひばり君の大ファンのお前なら、写真ぐらい切り取って、メモ帳やら警察手帳やらに入れてそうだからな」





「…ちっ……やっぱ、勝てねぇな。俺の負けだ」


両手を上げ、谷村は悔しげに笑った。



「……もう、演じるのは止めたらどうですか?浅木洋子さん」


「え?」








ひばりは、浅木を見ずに、谷村を見たまま、浅木にそう告げた。


「あなたは、本当は盲目なんかじゃありませんよね?」


そして、ひばりは浅木の方を向き、強めに云った。


広間にいた人間全員が、ひばりと浅木に集中する。



「どうして?」



「久堂先生がこの広間に来た時、云った言葉を思い出してください。久堂先生は、『犯人は、青い目の人形が憎かった』と云いました。もしかしてそれは、犯人は、『青い目』の人形が、憎かったんじゃないのか、って私は思いました。と云う事は、犯人は青い『目』の人形が憎い、と詳しく解釈して、目に何かある人が犯人だと、考えました」


「―――…凄い。名推理ね。確かに、私は、青い目の人形が憎かった。だって、この目のせいで、小さい頃からからかわれて、一人だったんだもの。この村に来て、この『異国人形館』を知った。なら、この人形館を、青い目の人形を見た人物を、潰せばいいって……」


「―――それで、旧館に入って、書庫で人形の履歴書を見て、そこに載っていた、御繰亭の亭主を殺したのか」

久堂は、腕組みをしながら、窓を眺めていた。その窓の向こう側には、白い壁が黒ずんだ、御繰亭旧館――異国人形館――が、ぽつんと佇んでいた。




「謎解きはもう仕舞い――…。




犯人は、あなたです」






ひばりが、浅木洋子を指差し、云った。



まるで、本当にこれで、この事件で謎解きを終わらせるかの様に――――





「そう、私が……」

浅木は、それに応えるかの様に、下を向いていた顔を上げる。








サングラスの下、浅木が開いた瞳は、




異国人形の様に、青かった。

最終章

帰りの普通電車。

午後6時頃を回って、外はもう暗かったが、窓の外は灯りが点々と灯り、赤く染まる紅葉をぼんやりと明るく映していた。

私は、向かい合った4つの席の、向かいに座っている久堂先生に話しかける事が出来ずにいた。


久堂先生は、じっと、窓の向こうの景色を見ている。



その額には、まだ痛々しい包帯が巻かれている。


「……さっきからなんだね?私をじろじろ見て」

久堂先生から話しかけて来た。

「えっ?そ、そんなにじろじろ見てましたか?」

「云いたい事があるなら云え」

あれ、なんか、機嫌悪くない?

私の行動が、気に食わなかったのかな?

ここは1つ、必殺技を出してみるか。

「えっと…先生。た、助けてくれてありがとうございました。やっぱ、先生が一番です」

笑顔で、ちょっと頬を赤らめて、先生に云う。

これで惚れない男はいない……と、思う。


久堂先生は、まぁー興味無さげに窓の外を眺めてる。


云いたい事云えって云ったのはどこのどいつなんでしょうね!


「……そうだ。私も云いたい事がある」

思い出した様に、久堂先生は呟く。


「犯人の目。あれは、自分で考えたんだろう?」

「え?ああ、はい。私としては、名推理だと思うんですけど、
どうでした?」

私が自慢気に云うと、久堂先生は、いつもの意地の悪い笑いではなく、普通に、めちゃくちゃかっこよく微笑んだ。


「ああ。今回も、君の手柄だ」


顔が赤くなるのを感じた。ああもう、普通にしてたら、普通にかっこいいのに……

「……ま、犯人に気づくのはまだまだ遅いがね」

いつもの意地の悪い笑みに戻った。戻っちゃったよ。


でも、これで折れるひばりちゃんじゃないですよ!


私は久堂先生に向かって、大きな爆弾を投げてみた。

「先生。」

「なんだね」



「ロリコン」



笑顔で爆弾を投げた。しかし、無効だったのか、鼻で笑われた。



「そのロリコンに助手としてくっついてるのは、どこの生意気娘だろうな」

私は思わず立ち上がり、久堂先生につっかかる。

「せ、先生のロリコン、ドS、貧乏人!」


「おい誰が貧乏人だ」

認めないのはそこだけですか!




「元気だねぇ」




……あれ?



今、久堂先生の後ろの席から、抑揚のない、聞き覚えのある声がしたような……?


私が唖然としていると、私達の前の席から、ひょっこりと、ウェーブのかかったショートヘアの眼鏡の男が現れる。

「か、唐島さん?」

「僕だけじゃないよ」

私が前の席を見ると、唐島さんの向かいの席には、葵彌さんと奈智流さんが座っていた。


「……いい年して何をしてる?」

久堂先生が呆れた様に、腕組みする。

「いやぁ、名推理だったねぇ。尊敬しちゃうよ」

「やい久堂蓮真!お前、いい気になってんじゃねー!」

わあ、電車内のマナーを守らない人勢揃い!


「ところで唐島君、君は何がしたかったのかね」

久堂先生がポケットから、紐を取り出す。

「あ、見つけてくれたんだね」

「ど、どういう事ですか?」

「この野郎、私達の邪魔を密かにしていたのだよ」

「え?」

「例えば栞が無いとか、時計を早めたとか、全てこの男のせいだよ」

「えぇっ!?」

私は驚くしかできなかった。

「な、なんでそんな事を!?」

「聞いても無駄だ。どうせ――…」

「ちょっと、気紛れにね」

「全く、君の家系はどうなっているのかね」

久堂先生は呆れ果てていた。

「まあまあ」

唐島さんは久堂先生にそう云い、私に微笑んだ。

「僕の栞、見つけてくれたかい?」

「え?」

私は分からずに、バッグの中を探った。


「も、もしかして……」


私が持ってきたトランプ。中に、折り曲げられた栞が入っていた。



その栞は、両面、悪魔の絵が描かれていた。


「いつの間に……」

「ちょっと乱暴だったかもしれないけどね」

「……あ!」

まさか、昨日の、ぶつかった時……!?



「とんだペテン師だ。こんなのが古書店の跡取りとはね」

久堂先生は、窓の外を見ながら云った。

え?この人あの古書店の跡取りなの!?それ、初耳!

「あはは。面白かったよ。……しかし、二人共、無事で良かった」

いきなりその話に入っちゃいます?

無理矢理な人だなあ……


その時、私の頭には、ある1つの考えが浮かんだ。

もしかして、私にあの『機巧人形』を見せてくれたのは、もしかして、この、唐島さんなんじゃないのか。


せめて私だけでも、怪我はさせないように、あの部屋に幽閉したのではないのかな。



……もしかして、久堂先生、それが解っちゃったせいで不機嫌だったりする?

「……何をニヤニヤしてるのかね」

腕組みして久堂先生が私に問いかける。

この顔は、私の考えてる事解っちゃったっぽいな。

私は、久堂先生の困ってる貴重な表情が見たくて、わざとそれを声に出してみせた。

「嫌だなぁ、先生。男の嫉妬程醜いものはありませんよぅ?」

「君はぶっ飛ばされたいのかね?」

ズバンと突っ込まれた。ひばり、98のダメージ。


でも、その残り2を使って、私は久堂先生の物真似で笑ってみせた。


久堂先生は右手を顔に当て、呆れ果てた。



まあ、久堂先生が困ってる顔を見れたので、よしとする事にした。








「阿破破!」



「やれやれ…」












                 (了)

【二次創作】異国人形館殺人事件

性懲りもなくすいません。


年内に完結する事ができました。

最後まで読んで下さった方に感謝状を百枚贈りたいです。

そういう訳で、『古書屋敷殺人事件』ノベライズ化おめでとうございます。

てにをはPに今すぐ言いたい。


すいませんでした。小説、楽しみにしてます。

ところで話は変わりまして。

依頼人の御繰さん。あれ、私の頭では読めなかったので漢字違います。

それともう一つ。古書店の跡取りさん。あの人は『からしま』とか『から』でキーボード押しても出なかったので、あのまま。

誰か頭の悪い私に、からしまの『から』の違う読みを教えて下さい。

何がなんだか分からない方はてにをはPのブログを見る事をおすすめします。

全ては私の責任です、すいません。

それともう一つ。
最終章の、ひばりちゃんと久堂先生が乗っている電車ですが。

あの席の配列は、新幹線を思い出して頂ければと。なんせ私自身は文章力が皆無でして。解りにくくてすいません。


本編は、てにをはPがまたいずれ曲を出して下さったら、しつこく書こうと思ってます。

それまで、私の妄想に付き合って下さる方は、また、飽きるまでお付き合いください。

それでは皆様、また次の作品で会えることを願って。





        H24.12.31



今回も最後に一言。

『古書屋敷殺人事件 小説 銀丞』でググって(もしくはヤフって)くれた人、感謝状千枚贈らせてください。 

【二次創作】異国人形館殺人事件

事件は、『異国人形館』で起きました。 「先生、また事件です!」 「やれやれ」

  • 小説
  • 短編
  • ミステリー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-12-09

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work
  1. 序章
  2. 第1章
  3. 第2章
  4. 第3章
  5. 第4章
  6. 異国人形
  7. 第5章
  8. 第6章
  9. 第7章-小説家視点-
  10. 第7章-女学生視点-
  11. 第8章
  12. 謎解き
  13. 第9章
  14. 最終章