なんにもないところで

雪水 雪技

なんにもないところで

リバーサイド

朝は消えていった
消し去りたいものを
書き連ねる中に私が在る
消えたい気持ちは何処から
消したいものたちは何なのか
消しゴムに願うことは多かった
たくさんのおまじないが消された

私はまだ在る

新品の消しゴムも
古い消しゴムも
役割は果たせる

それは羨ましいことだった

放火されるからだ

火種は息をしている
消しても消しても
火は燃えている

知らないふり
火傷するまで
知らないふり

燃え尽きて
私も朽ちて
滅びた今日

さようならを叫んで
誰もいない場所に

マッチ箱に水をかけ
新品の煙草の箱を
水溜りに投げ入れ

私の腑は燃えさかる

過ぎたおやつの時刻

空から降るのはひなあられ
口を開けて空を見ていれば
はしたないと叱られた春の日

月をかじる日
毎回違う味がする
三日月は飴玉
半月はお煎餅
満月はチーズ

七つになってもやめられなかった
空にある私のおやつに手を伸ばして
退屈な午後を助けてくれた優しい味

二〇二一年手帳のうた

本日の出来事を
箇条書きにして
箱を埋めていく
チェックを入れて
安堵する心に疑問
目的なのか手段なのか
よくわからなくなるまで
いつまでも走り続けている
手帳を何冊も買って埋めて
心が満たされる日の予定を
書けないままのマンスリーページ
本当の予定だけで埋められたい手帳

ワークショップの包囲網

曖昧なものに振り回される
心、思考、精神、魂、気持ち
付箋に書いたそれぞれを
模造紙に貼っていく作業
バラバラなように見えて
言ってることは皆同じだ
言葉を変えて
感情を変えて
私を惑わすのは何故
私を振り回すのは何故
赤いマジックで描いた包囲網
私を逃がさないために

モネが描く背表紙の

魂を本棚に返す時刻
カバーに入れられて
就寝の時刻まで
隣の童話を読み聞かせ

夜間司書は
緑のランタン片手に
文体に宿る魂の
眠りを見届ける

真っ暗な書庫にて
点滅する光は
落ち着かず、
耐えかねて、
ロマンが踊り出す真夜中
ターコイズブルーのドレス
マゼンダの背表紙と秘密の夜会

答え合わせてバツが付く

架空の空の夕暮れを
海の生き物が占拠する
自由の意味を辞書で引く
今日の宿題に赤いバッテン
何が正解かを求められても
架空の空の色は紫色をして
架空の空は海とつながって

それらにいくらバッテン付けても

外の世界が、

この世界を終わらすことは出来ない

事故が起こった薄暮時

ずっと在った
かなしみは
形を変えて
音を変えて
私にいつも訴えていた

それに私は気が付かない
私は目の前の、
もっと、こまかいものへ
いつもはなしかけていた

かなしみは涙に暮れる
紫色の夕暮れに滲んで
私に再度、訴えかける

これはお前のものである
これはお前にかえりたがっている

否定され続ける構文の気持ち

未だ私とあうことなく
私は私を叱責すること
私は私を許さないこと

久しく

私の中の否定形の悪癖が
たくさんの肯定に否を付け

嫌いになるものは増えて
溜め込んだ何かが溢れて

今朝、決壊する

排水は遅く
しかし、
走るペン先
濁流の中の私を
未だ諦めず、

索引して果てまで着いて

どこにも私のことは載っていない
解説マニュアル、ハウツー本、
専門、入門、児童書に、
探すのはいつも私のこと

でも私、一度も私を見たことがないの

トリケラトプスのページを開いて
私、途方もない、地獄だって
今朝、気がついたのよ

ミステリーがざわめいて

靴箱に入っていた暗号文
教室から飛び出た怪談話
深夜二時からの猫の集会
それらは奇妙なピースで
何千ピースも毎日生まれ
四次元になるパズルたち
解読してこちらから信号
陰謀渦巻くホームルーム
私の声が聞こえたのなら
第二ボタンに触れてくれ

私の辞書に馴染む文字は無い

未知のままになる
世界の余白には
何を描くかで
世界は騒ぐ

地図も衛星写真も疑って
図鑑も百科事典も疑って

それなら君の哲学を書きなさいって
その宿題は野暮だと空き缶を蹴った

誰かの言ったことを
自分の言葉だと思うのが
自分の考えだと思うのが
私には一番怖かった

福笑いになる吉凶

冬の桜が迫り来る
鍋に入り込む桜が
季節を食べに来た
何も間違ってない
冬の向日葵も咲く
枯葉は木にかえる
太陽が沈まなくて
みんな土に潜った
風は止む海は凪ぐ
雪は今年休みます
今朝電話があった
餅は食べていいよ
正月が言っていた
これが初夢ならば
吉ですか凶ですか
いいや笑い話です

嘘吐きへ告ぐ

深夜に拾った
昼のかけらは
煤けたまま不貞腐れ
朝が来たから追い出すが
明るいのを嫌って居座る

「仲間意識なんて持つものか
持たざる者に隙を見せるか
同じなんて言う奴は詐欺師
仲間意識の消費期限は一日」

私は誰に言ってるのか
わからないまま
喚き散らして

カーテンと一緒に裂いた真昼

蛇のように睨み蝶のように散る

ヒビが入る心のお陰で
脱皮がしやすくなる
蛇のように睨んで
私は地面を這う

自分を脱いでも蝶にはなれない

繰り返す同じ形の私が
複数形になる一日を
ぼやけていく視界を
漫然と進んでいる
中断されない私

林檎を食べて泣き喚く男女
ビデオに見て無感動な涙

誰か私に惜しみの無い歓声を

年越しの儀式

縁を切った
髪を切った
前線を切った
電話線を切った
ツバメが飛んでいく
その飛行経路を眺めて
崖の上で歳を取っていく
荒地で越した年を後ろに見て
テレビを消して
ライトを消して
私の消息を絶つ
あひるが鳴いた
応答はしない口

私を消した人達が
手を合わす方角に
幸せが無いことを匂わせて

ミッドナイトルーティン

お前の本能は正しい
いつだって私から逃げる
それはとても正しいこと

嫉妬に値するものに
出会えなくなっても

私は私を
証明できる
わけではない

逃げていく群衆を見て
心は跳ねることも
飛ぶこともなく

私は座り込んで
次に来る眠気を待つ

嵐はルーティンとなって
晴天はいつの理想だろう

いつまでもいつまでも

諦めろ、感傷は常に更新される
いつまでも、十代みたいに生きるな
諦めろ、お前はもうあの頃にいない

壊れそうな自我に酔ってる内は
お前の嫌いな厚顔無恥と変わらない

真っ赤になる前に
その化粧を落としてみろ

鏡を見ろ、
お前はもう制服は着ていない

お前はどうあっても既に自由だ

なんにもないところで

なんにもないところで
水鉄砲をうっている
的もないから外れない
水玉模様の服を着て
おかっぱ頭の後ろ姿
寂しい記憶は他人のもの

なんにもないところで
知らない子供の夢を見た
色のない世界の真ん中で
その子の黒いおかっぱ頭
その子の赤い水玉のワンピース
泣きそうな怒った瞳で私を見た

虚構生存権

美はただの事実と主観

意見だ主義だ主張だとか
思想とか思い出とか肩書きとか
たくさんの装飾は何のためかなんて
知る日は来ない

何か探していないと不安だから
探し物を見つけないように
細心の注意を払って探して

本当は何もいらないのに
それがないと、
生きていけない、
フリをしている。

なんにもないところで

なんにもないところで

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • ミステリー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-11-26

Copyrighted
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  1. リバーサイド
  2. 放火されるからだ
  3. 過ぎたおやつの時刻
  4. 二〇二一年手帳のうた
  5. ワークショップの包囲網
  6. モネが描く背表紙の
  7. 答え合わせてバツが付く
  8. 事故が起こった薄暮時
  9. 否定され続ける構文の気持ち
  10. 索引して果てまで着いて
  11. ミステリーがざわめいて
  12. 私の辞書に馴染む文字は無い
  13. 福笑いになる吉凶
  14. 嘘吐きへ告ぐ
  15. 蛇のように睨み蝶のように散る
  16. 年越しの儀式
  17. ミッドナイトルーティン
  18. いつまでもいつまでも
  19. なんにもないところで
  20. 虚構生存権