truth

あおい はる

 意味のないものの、集合体だった。からっぽ。厚塗りを剥いで、のぞきみえた。黒の密集ではなく、空洞だったのだ。なかみがないということは、意味がないのと同義であり、いらないも同然だと、血の気の多いあのひとはいうけれど。いつも、おだやかに微笑んでいて、うまれてから一度も怒ったことなどないのでは、と思うほどに、凪いだ海のような純白のあのひとは、この世界に生を受けたということは、存在することを許されたのだから決して、いらないものではないのだと、先生が幼い子どもに言い聞かせるみたいに語る。
 選ばれたひとの涙には、宝石と同等の価値があるとされている街で、きみがただ、涙を流すために生かされているのだと知った。いちばんこわいのはにんげんって、ほんとうなんだと、わたしはしみじみと思った。夜。ドーナツやさんで、無難なシュガードーナツを食べながら、きょう一日のできごとをふりかえって、果たしてわたしは、何人のひとを憎み、蔑み、慈しみ、愛しんだだろうと考えた。面と向かっておしゃべりしたひと。電話越しに会話をしたひと。あいさつだけを交わしたひと。すれちがった見知らぬひと。ぼんやりと視界に入っただけのひと。わたしはだれに好感を抱き、嫌悪し、関心を持ち、無意識に切り捨てたのか。
 シュガードーナツの砂糖が、ぼろぼろと皿にこぼれて、カフェオレのなかにも溶けてゆく。
 血の気の多いあのひとと、天使を想わせる純白のあのひとが、いつもすこしだけ、世界の真理を見せてくれる。
 きみの涙がどんなに高価でも、わたしはほしくない。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-11-22

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